言わせねーよ

 旧フグラルブ王国領・地下室



 閉ざされていた壁の向こう側に存在していた死体。これは間違いない。


「犯人はこの中に居ます!」

「なっなんだって~!」


 僕の宣言に反応したのは、ノリの軽い悪魔だけだった。

 分かってたよ。知ってたよ。滑ると分かっていても全力でアクセルを踏まなきゃいけない時があるんだよ。


「アルグ様」

「なに?」


 可愛らしくノイエが小さく首を傾げる。


「今のは?」


 優しく傷口を抉らないで。僕へのダメージは被害甚大だよ。


「全部あの悪魔が悪い!」

「うわ~。自分で滑っておきながら責任転嫁とか最低ね」


 やはりその姿がポーラなだけはある。腕を組んで『ふん』と怒る様子が愛らしい。


「……今の『最低』の部分をもう少しあれな感じで」

「うわ~。もうさいっていなんだから!」


『いえ~い』と喜び悪魔と手を叩き合う。

 お互い滑っていた自覚があるからこんな時だけは傷をなめ合いたくなるのだ。


「結構経っているね。死因はこれだと分からないけど」


 唯一死体に向かったリグが検死報告を上げて来る。真面目か!


「これがミイラって奴?」

「ん~。正直に言うと違うと思う。死体が風化しただけかも」

「そうなんだ」


 改めて死体の前に移動する。


 まずは手を合わせて……ノイエさん。真似をするならちゃんとなさい。

 今の君だとそのまま中国拳法とか始めそうだぞ? だから拳を逆の掌に押し付けない。


「むう」


 目前に僕と言うお手本が居るのにノイエさんは迷走中です。

 仕方なく彼女の背後に回り、手首を掴んで手を合わせる。


「こうね」

「はい」


 僕の声に従ってノイエが改めて手を合わせて一礼した。


「誰?」

「誰でしょうね?」


 直球すぎるノイエの質問って、実は考えるのが面倒臭いから答えを知りたがっている気がする。


 ゴソゴソと死体を漁るリグの様子をノイエと並んで見守る。

 これまたボロボロとなった服を奇麗に解体していき……全部骨なら耐えられるのに、時折皮膚っぽいものや何かしらの塊やらが出て来るのです。


 リグさん。貴女が持っているのは肉ですか? それとも内臓ですか?


「ん?」

「何々?」


 見てて楽しくは無いけど声が上がると反応してしまう。

 手にした物を眺めていたリグが振り返り床に置いた。


「たぶん子宮の辺りにあった」

「おおぅ」


 手を伸ばしかけたら反射的に引っ込んだ。

 それはちょっと……と、これこれ悪魔。横から掻っ攫うな。ポーラの手に何かあったらどうする?


「これは駄目ね。もう使用不可だわ」


 ポイッと投げ捨てた。メイドである妹の姿で何をすると苦情を言おうとしたら、床にたどり着く前に燃え尽きて灰すら残さなかった。


「なんだよそれ?」

「ん? もう忘れた? どっかの残念軍師が求めていた物よ」

「あったね~」


 そんな物もありましたね。


「リグのお腹に埋まっているとか言うヤツだっけ?」

「ええ。その子のヤツは無理矢理突っ込んで抉り取ってやったわ」

「ひぅっ!」


 検死していたリグが激しく動揺した。

 そりゃ本体の方に手を出すのは……ズルいし怖いよな。


「傷1つ残してないだろうな?」

「ご心配なく。私がそんなへまをする分けないでしょう?」


 エプロンの裏に手を突っ込み悪魔が何かを引き抜いた。彼女の掌に乗る大きさのガラス玉だ。


「これが体内に隠されていた物よ。今は封印してあるけどね」


 なるほどなるほど。だからそんなスノードームの様な状態なのか。


「で、何?」

「簡単に言うとあれよあれ。自動車の近くでポチっと押すとガチャッとする感じなヤツ」

「つまり鍵だと?」

「そう言うこと」


 右手で持つガラス玉を眺めていた悪魔が今度は左手をエプロンの裏に入れる。

 あら不思議。もう1つ同じ物が出て来たよ。


「2個あるの?」

「あるのよね~」

「その含みのある言い方は振りか?」


 フラグなど僕が立つことを許さない。


「ほら。ホムンクルスとして、そのおっぱいの偽物を作ったでしょ?」

「だね」

「そうしたら同じ物が出来てた」

「おいっ」


 この天然トラブル発生装置が!


「どうもこれってそのおっぱいの血肉を混ぜているみたいでね、体の一部として復元しちゃったみたいなのよ~。私の才能に驚きが止まらないわ~」


 両手にガラス玉を持って馬鹿がクルクルと周り離れていく。

 背中に隠し静かに生じさせたハリセンに気づいたらしい。


「どっかの人は『自分へましませんから』的なことを言ってませんでしたか?」


『私失敗しないので』的な名言風にだ。だが田舎である僕の故郷では見れませんでした!


「馬鹿ね。本当のへまはへまをしたことに気づかず反省しない馬鹿のことを言うのよ。私は気づいて反省するから天才なのよ」

「ノイエ~。その馬鹿捕まえて来て~」

「卑怯なり! お兄様!」


 あっさりと脇に馬鹿を抱えてノイエが戻って来た。


「剥く?」

「何を?」

「こう」


 スカートを捲って下着もはぎ取る。

 肉付きの薄い白い桃が目の前に。


「ノイエさん? 妹をイジメる行為に加担するのは良くないのでは?」

「大丈夫」

「その根拠は?」

「この子嬉しっ」


 手を伸ばして黙ってノイエの口を塞ぐ。

 それ以上は兄として聞きたくないのです。本当にお願いします。


「にいさま。したぎをっ」


 暴れたいのに暴れられないポーラがモジモジと抵抗を見せる。


「あっうん」


 床に落ちていた下着を拾いとりあえずポーラに手渡す。

 ノイエに抱えられたままの彼女は頬を真っ赤にして僕の視線から顔を背けた。


「みましたか?」

「あ~うん」

「……」


 赤かった顔からどんどん血の気がっ!


「ししょうのいうとおりでした」

「何が?」

「なにがあってもいいように、ちゃんとていれをっ」


 今度はそっとポーラの口を塞ぐ。

 もうこれ以上妹が汚れていく過程を見るのは兄として耐えられません。




「骨盤で確定。この人は女性だね」


 真面目に検死をしたリグがそう結論を出した。

 衣装の様子から僕ら全員『女性だろう?』と思っていましたが?


 僕の空気を感じたのかリグが冷ややかな視線を向けて来る。


「女装した人だったら?」

「そんな特殊性癖な者は焼き殺してしまえ!」


 広い心を持つ僕は決して差別や区別などしない。全ての性癖に等しく理解を示そう。


 だが生理的に無理な物は無理!

 ゴツイ男性が女性の服を着ているのを見るのは正直辛いのです。


「大丈夫。この人は女性だったよ」


 告げてリグが僕に向かい手を伸ばしてくる。彼女の掌の上には、宝石ですか?


「隠されていた。たぶん飲み込んだ物だと思う」

「これをですか?」


 そこそこの大きさの宝石だ。青いけどダイヤっぽく見える。


「お馬鹿賢者~」

「まっかせなさい」


 喜び勇んで妹の姿をした悪魔が宝石を掻っ攫って行った。


「何だ。ただのイミテーションか」

「はい?」

「偽物のブルーダイヤよ。中は傷だらけね……ガラスかしら?」


 明かりにかざして観察する彼女は、ふと動きを止めた。


「お姉様」

「なに?」

「これを包むように両手で持って」

「はい」


 基本素直なのでノイエは言われるがままに従う。

 悪魔の指示に従い宝石を両手で包む。


「はい。そのまま……そのままよ~」


 トコトコと歩いて来た悪魔が僕に向けて『はい』と言いたげに掌を向けるようにして手を差し出す。

 えっとその手を握れば良いのでしょうか?


「ハリセン」

「……自分で出せよ」

「嫌よ」


 本当に我が儘だな。

 ハリセンを呼び出し彼女の手に置く。


「学生時代……学校の箒で極めた私の技を披露する時が来たわね」


 何故かハリセンを逆手に握り馬鹿がそれを腰だめに構える。


「これがあの伝説の……ア〇ンストラッ」

「言わせねーよ」


 どこぞの伝説の技が炸裂する前に、僕の追加ハリセンが馬鹿の後頭部に炸裂した。


「いったぁー」


 したたかに食らった僕のハリセンに苦痛の声を上げつつも、馬鹿がハリセンでノイエの尻を思いっりひっぱたいた。


「あん」


 まさか! ノイエが甘い声を出すだなんて!


「で、何をした?」

「ちょっと魔力の流れを操作しただけよ」


 悪びれた様子も無く悪魔が自分の後頭部を摩る。


「何のために?」



『聞こえますか?』



 静かな声がノイエの手から響き始めた。




~あとがき~


 刻印さんが暴走してるわ~w


 そんな訳で検死の結果死体は女性の物で確定です。

 彼女はフグラルブ王国の一定数が隠していたとある魔道具の鍵を持っています。

 そして何かしらの魔道具を隠していました。


 結論として…次回は語りメインの昔話回となります




(C) 2021 甲斐八雲

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