Main Story 15
すごいです。きれいです
「ノイエにこんな格好をさせるとか本当に人の屑ね?」
「ですが人間窮地に陥った時は最大限のご褒美があれば頑張れると思うのです。具体的にはその短いスカートから覗く白い足に頬をスリスリすることによって僕の苦痛に満ちた日々が薄れて消える思うんです」
「へー」
地の底を滑るようなとても穏やかで恐ろしい『へー』だ。
こんな棒読みなのに背筋が凍り付きそうな『へー』を僕は知らない。
よって全力土下座は継続するのです。
と言うかおかしい?
何かが色々と狂っている。
どうして僕が土下座しないといけないの? 今回の最大の功労者は僕でしょう?
だから出て来る人たちはみんな迷わずそのミニスカメイド服を着てくれるのです。
問題は宝玉を使って出て来た人には着せられない。サイズの問題で。
フリーサイズのミニスカシリーズの作成を秘密裏に頼まなければ。頑張れコリーさん。
白い足を組んで踏ん反り返るミニスカメイドさんなお嫁さんが、僕にまた冷たい目を向けて来る。
赤い髪と赤い瞳の彼女はアイルローゼと言う稀代の魔女だ。
最近刻印の魔女と言う超絶チートキャラが登場したけれどあれは規格外すぎる。
人の領域で最高峰の人材は間違いなく先生だろう。
「みんなにこんな服を着せて……どこの色馬鹿かしら?」
「えっと……先生もお似合いですよ? 本当のお体だともっと良く白い足が」
「あん?」
お嫁さんが他人には見せられない凶悪な目で見て来るのです。
「確かにみんな貴方に恩を感じてこの姿を受け入れているみたいだけど?」
「願わくば全員を制覇したいかな~とか思ってます」
「出て来る人間なんてひと握りよ」
ため息交じりで先生が息をつく。
机に頬杖をついて視線は遠くに向けた。
「にいさま」
「どうしたのポーラ?」
ちょこんと僕の隣で正座して来たのはウチの可愛い義妹だ。
あの馬鹿賢者が命じて来たから正式にノイエの妹として申請した。よって彼女の正式な名は『ポーラ・フォン・ドラグナイト』だ。
継承権は2位に指定してあるので僕や1位のノイエに何かあればポーラがこの家を引き継ぐ。
ちなみにノイエに子供が出来ればポーラの順位がどんどん下がる。それがこの国の決まりらしい。
ジッとノイエを見つめるポーラの頬が若干赤い。
もしや罵られている僕を見て義憤に駆られたか?
ダメだポーラよ。相手はこの国で喧嘩を売っちゃいけない人の5本の指に入る猛者だ。
後は叔母様とお義母様とノイエとカミーラかな? あら不思議? ほぼ全員が身内とかってどんな苦行!
「……かっこいいです」
「はい?」
「きょうのねえさまはすごくかっこいいです」
最近賢者との付き合いで色々と毒されつつあるポーラは、色の変わるノイエを『きょうのねえさま』と区別しだした。賢い女の子だから名前を教えればちゃんと覚えるのだけど『くべつするのはよくないです』とか言い出して全員を平等に姉様扱いしている。
結果ノイエの家族に可愛がられております。
世渡り上手になってお兄ちゃんは嬉しいです!
尊敬の眼差しを先生に向けるポーラは放置しておくとして、ようやく先生が出て来たのです。
「先生っ!」
「何よ?」
「お願いがありますっ!」
額を床に打ち付けて全力で願う。
何となく頭の上から先生のため息が聞こえた。
「協力者を得るために必要になった術式を刻んだプレートが欲しいんでしょう?」
「……はい」
「良いわよ。適当刻んでおくから勝手に持って行きなさい」
「あの~?」
「あん?」
「出来たら早いうちに一枚でも……」
伏して願い続けたら、むにゅっと何かが後頭部を。
「勝手に約束しておいて命令する気?」
「……そこを何とか」
もしかして今の僕……ノイエに頭を踏まれてますか? 踏まれてますか?
大変なご褒美です! ありがとうございます!
「分かったわよ」
頭を踏まれたままで居ると引き出しが開く音が。
「そこの小さいの」
「はい」
「ここに立ちなさい」
「はい」
なに? 何が起きてるの? ポーラをどうする気?
「すごいです」
「そう?」
「きれいです」
「こんなの簡単よ」
褒め千切るポーラの声に機嫌の良さそうな先生の声が!
まさか僕を踏みながらプレートを刻んでいるのか? 何その高等テクニック? 世に居るマゾい人たちが大興奮するよ? ハアハアだよ?
ここまで無視されるとか……危ない性癖にマジで目覚めそうだ。
「わたしもできますか?」
「才能があれば誰にでも出来ることよ」
「さいのう……」
大丈夫。ウチのポーラは可能性の詰まった可愛らしい女の子ですから! だから願えばきっと先生以上の魔女にでもなるでしょう! 現時点で誰がどう見ても可愛らしいメイドさんですけどね!
「はい出来た」
「すごいです。きれいです」
「そうかしら?」
クスクスと笑いポーラの声援でプレートを刻んだらしい先生が足を退ける。
ガバッと顔を上げたら頬杖をついた彼女がこっちを見ているのみです。完成したプレートはポーラが両手で持って色々な角度から眺めてます。
「ちなみにそのプレートはどんな感じの魔法で?」
「これはあの変な魔法を使う女に渡すんでしょう。だが二度と手放そうとしない魔法を刻んだ」
「どのような?」
「簡単よ」
冷たく笑って先生がこっちに顔を向ける。
「シューグリットが作り出した術式。魔力増強の式を刻んだプレートよ。下手をしたらその日のうちに体内に埋め込むこと間違いなしの一品ね」
確かに。イーリナの弱点は魔法に対しての魔力量の少なさだ。
それでも人並み以上にあるらしいが、彼女の魔法を振るうのには少なすぎる。
「ちなみにこれを埋めたらどうなりますか?」
「倍ほど時間が伸びると思うわよ」
それが事実なら魔法を使う者たちが血眼になって欲しがるだろう。
と、ポーラが手に持っているプレートをギュッと両手で握った。
「わたしもほしいです」
「あら困ったわ? お兄さん? 可愛い妹がおねだりしてるわよ?」
のがぁ~! まさかポーラが物欲に走るとか!
「ダメだポーラ。それは約束した人にだね」
「……だめですか?」
瞳をウルウルとさせて見つめて来るとか反則だろう!
ポーラが傷つかないようにやんわりと交渉すること一時間……最終的に先生に向かい土下座し、ポーラには別に凄いプレートを刻んで貰うことにした。
「もう疲れたよ」
交渉で燃え尽き無事に戻って来たプレートを机の上に置く。
ポーラはしなくても良いのに夕飯作りの手伝いに向かった。
本当にもう立派なメイドさんだよ。
「で、馬鹿弟子?」
「はい」
気づけば先生はベッドの上に座っていた。女の子座りで可愛らしい。
と言うかノイエのビジュアルは何を着ても可愛らしいから無敵だ。
ポンポンと先生が自分の太ももを叩いた。
「今回のご褒美に膝枕ぐらいしてあげるわ」
「……ありがとうございます!」
何てご褒美でしょう! あの先生の膝枕だなんて……その膝はノイエのだけど気にしない。
いそいそとベッドに上がって横になる。頭は相手の膝に預ける。
「ねえ馬鹿弟子」
「はい?」
太ももに頭を預けると先生が赤い目で僕の顔を見つめて来た。
「今回は褒めてあげるわ」
「本当に最高です」
その一言で僕の努力は報われるのです。
~あとがき~
気分が乗らなくてもサラッとプレートを刻む先生は天才なのです。
それにしてもミニスカメイド服を着せて遊んでいるアルグスタも…良い根性しているなw
(c) 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます