骨は拾ってあげるよ

「変わらず痛いんだよな……」

「諦めて。ボクにはどうしようも出来ない」

「分かってるけどね」


 綺麗に治った個所を見てため息を吐く。

 リグの治癒魔法は完璧だがとにかく痛い。これが無ければ……小柄な爆乳少女に舐められるとか本来ならご褒美だ。


「リグは何しに出てきたの?」

「……良く分からない。寝て起きたらこうなってた」


 説明もなくこんなことをするのは先生だ。

 リグも同じことに気づいたのか、何とも言えない表情を作り口を開いた。


「犯人はアイルか」

「だろうね」

「……なら良いか」


 良いのかよ?


 本当にどうでも良いのか、リグは脱力するとノイエに引き寄せられる。

 だらしのない格好でノイエに抱えられるリグは何と言うかこぼれそうです。


 何がって自己主張の激し過ぎるお胸様が!


「その服はどうにかならないの?」

「何が?」

「胸とかこぼれそうだよ?」

「助平だね。君は」


 少し顔を紅くして胸の位置を正そうとする様子が可愛らしい。

 ノイエの視線が冷たくなった気もするが。


「ブラ的な物とか無いのかね?」

「あそこには無かったよ」

「そうか」


 言ってもここにもリグサイズの物は無い。王都に行っても特注かもしれない。

 ああそうか。だったら……丁度手を刺した小振りのナイフがあったな。


「何を?」

「少し服をこうして」


 リグのおへそ辺りで着ている服をグルッと一周カットする。

 傷跡が薄っすらと見えるけど肌が褐色なのもあってよく見ないと分からない。入れ墨の方はこっちの世界だと珍しい物だが、タトゥーな感じだからそれほど目立たない。


 傷跡や入れ墨の位置を確認しつつ両胸のサイドを軽く縛れば……見た目の破壊力が増した気がするけど、こっちの方が似合う気がする。

 ついでに切った下のスカートの部分も腰の所でキュッと縛って、うん。上出来。


 何となく漫画とかで見る海辺でTシャツとかをキュッと縛った感じに見えるし、下はパレオっぽい感じに仕上がった気がする。


「どうよ?」

「お腹が出る」

「胸が出るより良いでしょうが?」

「そうだね」


 ノイエの腕から抜け出し、ベッドの上に立つリグはその肌の色もあって南国の少女っぽく見える。


「でも可愛いな。凄く似合ってるし」

「……ありがと」


 クルッと回って姿を見せたリグが頬を赤くした。


「ただ服を切っても戻るんだけどね」

「そうなの?」

「だから諦めてみんなあの格好なんだ」


 納得した。確かにレニーラもホリーも似たようなワンピース姿だった。


「ところで……どうすれば戻れる?」

「魔力が尽きれば」

「そうか」


 ペタンと女の子座りをするリグにノイエが背後から抱き付く。言われたことを護り律儀と言え律儀だが、そんなに甘えなくても良いと思う。もしやこれは嫉妬なのだろうか?


「なら君が怪我をしてそれを治せば戻れると?」

「少なくとも医者の娘ならその発想はどうかと思うんですけど?」

「昔に誰かに似たことを言われた」


 昔からかよっ! 実は危険思想な医者なのリグさんや?


「寝て待ってれば1日以内に戻れるよ」

「そうか。ならこうして……」


 ノイエの後ろからのハグにリグが大変座り心地が悪そうだ。

 ただ全力で甘えているノイエを突き放せないのか、リグは困った様子で僕を見る。


「その肩の治療が出来れば良いけど、骨折?」

「だね」

「父さんの包帯の巻き方だしね」


 やはりリグは先生の娘をしていただけあって包帯の巻き方で納得したよ。


「何か体調で困ったこととかは無いかな?」

「体調……」


 不調なところは無い。しいて言えばノイエに搾られて……それだ!


「ノイエと頑張っているのに子供が出来ないのです」

「……そう言えばそうだね」


 何かに気づいたリグは自分を抱きしめて居るノイエの手を外す。


「ノイエ」

「はい」

「そこに寝て」

「はい」


 指示に従いまな板の上の鯉と化す。

 ノイエの辞書に家族に逆らうという言葉は無いのか?


 リグはそのままノイエのお腹を……えっと何と言うか。余り押さない方が。具体的に言いたくは無いのですが。


 何かに気づいたリグがシーツの上を確認をして、僕に対して冷ややかな目を向けて来た。


 ごめんなさい。本当に色々とごめんなさい。各方面にごめんなさい。


「ちゃんとすることはしているから……」


 場所を変えて産婦人科的な感じでリグがノイエを確認をする。

 何故か首を傾げてもう一度確認をする。また首を傾げた。


「ああそうか。ノイエの祝福か」

「何が?」

「ノイエが……」


 こっちを見たリグの顔が真っ赤になった。


「まだ未経験なんだ」

「いいえ。それはあり得ないかと?」

「だから祝福で治してしまったんだろうね」


 納得だ。つまりノイエは永遠に処女ってことですか?


「そう言えばノイエの月一は直ぐに終わっていたね?」

「だね」

「なら妊娠する訳が無いよ」


 全てを片付けてリグが僕の方を向く。


「簡単に言うとノイエは子供を作れない体なんだ。と言うか祝福のせいで妊娠が出来ないと言った方が正しいのだけど」

「はい?」

「だからノイエの祝福が異物である物を全て吐き出し治してしまう」


 何とも言えない表情になってリグが頭を掻いた。


「子宮もノイエの人体だ。例外でなく祝福の効果を得ている」

「つまりノイエの治癒の祝福をどうにかしないと?」

「残念だけど死ぬまで子供を産むことは無いだろうね」


 衝撃を通り越して死刑宣告にも似た言葉だ。

 僕よりノイエの方が……ノイエさん。理解して無いのかキョトンとしないで。


「つまりノイエの祝福をどうにかすれば、ノイエは子供を産めるというわけだ」


 発想の転換だ。ダメな理由が判明したのだから、良い方向に考えれば良い。


「そうだけど……」

「だったらあの狂犬カミューをねじ伏せて、ノイエの祝福をどうにかすれば良いんだよね?」

「……骨は拾ってあげるよ」


 伏目がちでリグがそう言って僕から視線を逸らした。


 って、負ける前提で語らないで~! 何かの間違いで勝てるかもしれないでしょ?

 負ける確率100%とか勝つ確率0%は存在しないのだから! 限りなく0%は存在するけど!


「希望を見出したぞ!」

「君のその前向きなところは称賛に価すると思うよ」

「褒めるなよ?」

「うん。君ならカミューに勝てるかもしれないね」


 だから伏目がちで語るなリグよ。




~あとがき~


 主人公ようやく理由を知る。長かったな~。

 そして表現の限界を攻め過ぎていないか作者は冷や冷やしているw




(c) 甲斐八雲

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