若気の至りよね~

 別に難しい話でもない。

 ただ興味本位で普通ならやらないことをやっただけだ。


 私は高校である双子の姉妹に出会った。

 本当に同じ顔をしていて見分けるのは髪型ぐらいだった。


 仲良くなった理由は、私が休み時間に普通に漫画を読んでいて双子の姉が声をかけて来た。

 オタクであることを隠してなどいなかったから、私は普段から漫画を読んでいた。将来は首都圏に出てお台場の聖地に通える場所で暮らせれば良いと思っていたほどだ。


 お互いの家を行き来し漫画を見たりアニメを見たり、私の秘蔵のBL本を見たりと……仲良くしていた。


 GW頃だったか……双子の家に訪れていた私は、屋根裏部屋などと言う冒険心を掻き立てる場所に初めて案内された。梯子を昇り訪れたその場所を見て、私は軽く冷や汗をかいた。

 床板には怪しげな魔方陣。壁などにも色々な図形を描いた紙が貼られていて……この双子病んでるわ~と心底思った。


 何でも双子はクオーターで、オーストリア人の血を引いているとか。

 子供の頃はあっちに居たこともあり、住んで居た屋敷にはこの手の本が置かれていたとか。

 どんなフラグだろう……と思いながらも私のオタク心は止まらない。大興奮した。


 それからはその屋根裏部屋に集まるようになり、3人で魔方陣を囲っては色々とやってから漫画を見たりと話したりするのが私たちの生活になった。


 唯一私たちが間違えたとしたのなら、素人が適当にやってはいけないことをしていたぐらいだ。

 何百回と魔方陣を相手に遊んでいた私たちはある日当たりを引いてしまった。

 そう。床に描いた魔方陣が何かしらの何かが開いて私たちは飲み込まれた。


 気づいたら私たちは何処か知らない場所……世界へと来ていた。




「若気の至りよね~」

「ポーラの姿でそう言われると色々悲しくなるんですけど?」

「若いって良いわね~」


 ミニスカメイド姿のポーラ……刻印の魔女らしき賢者が僕の額に乗るタオルを取り替える。

 ポーラの祝福は氷結だ。洗面器に水を張ると両手を突っ込んで力を使うだけで氷がポコポコと浮かびだす。ポーラ以上に看病に適した人材を僕は知らない。


 冷え冷えのタオルが僕の額に戻り……落ち着いて考えると怪我人の頭を冷やす意味はあるのだろうか?


「で、こっちに来たの?」

「そうよ。まあそれからは色々と大変だったわよ~。何も知らない場所に少女が3人でしょ?」

「まあね」


 昔のこの大陸がどのような状況だったかは知らないけど、治安は決して良く無かったはずだ。


「だから一緒にこっちの世界に来た魔法書とかを読み漁って魔法を作りだしたのよ」

「……」

「それから襲いかかって来る野郎共を退治してたら近くの国の軍隊が来るでしょ? 返り討ちにしたら連合軍を組んで襲って来たから壮絶な戦いになって……この世界に来て5年は平和な時間を過ごせなかったわ」


 何か僕の耳に酷い雑音が?


「それからは大陸の中央くらいに私たちの自治領を作って平和に暮らしてたの。齢を取ることを止めて若いままで自由に過ごしてたよ」


 何故かとても楽し気に話をするのです。楽しい話だろうか?


「でもあの子が恋をして子供を産んだのよ」

「あの子?」

「ええ。始祖の魔女よ」


 楽し気な笑みが消え、どこか辛そうな表情へと変わる。


「あの子は3人の子供を産んだ。でも……それが狂う原因になった」

「何が?」

「子供の1人が病で倒れたのよ」


 両膝を抱いたポーラの姿をした魔女は、僕から視線を逸らした。


「伝染病だったの。彼女の子供が亡くなり夫も同じ病気に……」


 それは確かに辛い。


「だから彼女も私たちも魔法でどうにかしようとした。結果は分かるわよね?」

「この世界の魔法は治療に適していない」

「そう。私たちが持ち込んだ魔法書は全て黒魔術が基本の物だった。白魔術系が無かったから根性でどうにかしようとしたのだけど……結局は成功しなかった」


 軽く俯いて魔女は寂し気に笑う。


「だからあの子は考え方を変えた」

「考え方?」

「ええ。普通なら神に祈る場面なのに……あの子は神に会って自分の夫を救おうとしたの」


 思考が飛び過ぎている気がする。


「私たちも協力して天界に昇り神に会ったわ」


 天界とかあるんだ。


「でも私たちは神と言う存在を勘違いしていた。日本に存在する物語なら神は話せず通じる相手たった。でも違った。神は私たちの言葉に耳を傾けない」

「どうして?」

「貴方は目の前にゴキや蚊やハエが居たら、それの話を聞いて話し合う?」

「まず言葉が通じません」

「そうね。でも普通は殺虫剤か新聞紙などの出番でしょう?」


 何となく分かった。


「絶対的な支配者が下々の言葉なんて聞く訳が無い」

「ええ。だから彼らは私たちを消そうとした。失礼な存在を叩いて殺そうとした」

「で、やり返したと?」

「ええ。あの子は完全にキレて神を殺して天界を乗っ取った」


 苦笑したポーラが僕を見る。


「あの子は神になった。でも一度出来上がってしまった世界の理を変えることは神にもできない。だったらどうすれば良いと思う?」

「世界を無に帰してもう一度作り直す」

「正解よ。結果として彼女はそれを実行しようとして……私たちが敵に回った」

「どうして? ずっと協力していたのに?」


 そう。彼女たちはずっと協力して戦って来ていた。


「あの子は自分の残った子供まで殺すと言うのよ? そんな不条理を許せる?」

「……」


 真顔でこちらを見る彼女の怒りが伝わって来た。


「自分の子供を、夫を救う為に頑張って来たのに……あの子はこの世界を壊すと言った。自分の子供を含めて全部よ」

「子供を保護して」

「ええ。それも考えたわ。でも出来ない」


 僕の問いに彼女は否定する。


「世界を壊し再構築する間は天界に逃げるしかない。でも異世界人の私たちは耐えられてもこの世界の因子が強い子供たちは3日と耐えられないのよ」


 それでも始祖は……母親は子供を捨てて世界を壊そうとした訳だ。


「私たちはあれと戦い……そして殺しそこなった」

「それで今から殺すと?」

「ええ。そうしないとこの世界をあの馬鹿は消そうとするから」


 殺し合いの理由が余りにも寂しく思えた。


「1つ聞いても良い?」

「なに?」

「始祖の魔女の夫はどうなったの?」

「……死んだわよ。病気で」

「そう」


 やる瀬が無いな。本当に。


「それでどうする? 私に協力する?」

「要相談で」

「あん?」


 ポーラの顔でそんな凶悪な目をするな。


「ウチは基本何かする時は家族会議で決めます。だってそれが家族でしょ?」

「……そうね」


 苦笑するポーラの顔がどこか寂しげに見えた。




~あとがき~


 真面目な話なのに何処かギャグになるから不思議だわ~。


 そんな訳で刻印さんは始祖さんと敵対することにした。

 ただ始祖の子供たちを守るために、その母親と殺し合いをすることに…




(c) 甲斐八雲

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