漫才は趣味だからっ!

 栗色のノイエは笑いながらその場でクルッと一周したら……赤いローブを身に纏っていた。

 なにその変身ヒーロー的な衣装チェンジ? ちょっと羨ましいけど自分ではしたくないかな。恥ずかしいし。


「えっと……古いことを知っている賢者さんですよね?」


 フレアさんの一件の時に出て来て助けてくれた良い人だ。


「ええ。そうよ」


 確りとローブを纏った彼女は前を開いてマントを羽織っているように見せる。


 うむ。格好から入る人なのか? 決して嫌いではない。恥ずかしいけど。


「で、現在ノイエの中の人たちって出れないらしいんですよね。あの狂暴女の言葉が正しければ、右目の制作者とか何とかを除いて全員」

「つまりそう言うことよ」


 クスクスと笑う彼女はバサッとローブを払った。


「私が今回の騒ぎを起こした張本人よ」

「そうっすか」


 さあ困ったぞ。敵が目の前に現れたが僕には武器が無い。厳密に言おう。武器がハリセンと竜にしか効かない祝福しかない。物語の主人公だったら絶対に詰んでいる状況だ。


「無駄な抵抗は止めなさい。言っておくけど私は強すぎるわよ?」


 スッと彼女は、閉じたままの自分の左目を指さす。


「面倒だから能力を使ったけれど、少なくともこの左目の中に居る全員を倒して制圧した。その言葉の意味は詳しく言わなくても分かるわよね?」

「……」


 魔法なら先生が居る。純粋な武力なら姐さんが居る。行動に難があるけどシュシュの封印は破格だし、ファシーの魔法だって規格外だと知った。

 その全員が制圧されただなんて信じたく無いが受け入れるしかない。


 軽く両手を広げて戦う意思の無いことを示す。

 何より相手はノイエの体だ。傷つけることなんて出来ない。


「流石に諦めが良いわね」

「自分あっさり系なんで」

「そんな草食系発言が女子受けすると信じているのは、週刊誌に振り回されている学生ぐらいよ」


 煩いやい。モテない男子はその手の雑誌を必死に読んで学ぶしか無いんだよ!


「ん?」

「あら? 気づいた?」

「まさか……」


 草食系とか女子受けとか週刊誌とか。


「そうか」

「そう言うことよ」


 そう言うことなんだ。


「貴女も必死にその手の物を読んで頑張ったんですね」

「なんでやねんっ!」


 バシッ!


 高速移動からのハリセンチョップを食らった。


「基本私はボケが好きなのよっ! 分かる? 分かれ!」


 襟首を掴まれてぐいんぐいんと前後左右に揺す振られるって、気持ち悪い。


「次ふざけたら養成所に放り込んでツッコミを基礎から学ばせるから!」

「無茶を言うなよ。僕は基本天然系ツッコミ役だったんだぞ? そんな僕がツッコミなんて高度なことを出来る訳無いじゃん」


 何を言ってるんだこの人は? ツッコミにツッコミを求めるなんてハードルの高い。


「やってよ! ツッコミならツッコんでよ!」

「だが断る!」

「何でよっ!」

「何故ならお前は僕の相方では無いからだっ! ツッコミにツッコミをして欲しければ、それ相応のボケを磨いてから求めろ! ボケを甘く見るんじゃない! 出直して来いっ!」

「……分かったわよ。ちょっと修行して来る」


 トコトコと歩いて行く彼女の背中を見送り……このまま放置してみよう。

 窓ガラスを開けてベランダに出た彼女は、そのまま歩いて行って……


「止めなさいよっ!」

「なんでやねんっ!」


 バシッと背後からハリセンチョップを食らって僕はしゃがみ込んだ。

 窓から出て行った人が背後から現れるとかどんなマジックかと。


 それよりも今のはボケのミスだろう?


「今のは窓から出て行って『邪魔するよ』って言って戻って来る古典的なボケだろう? それで僕が『邪魔をするなら帰ってくれ』と言って出て行くまでが一連の流れ! つまりボケミスだ!」

「しまった。もう何百年と関西のノリを見てなかったから忘れてたわ……」


 ガクっと崩れ落ちて彼女は燃え尽きた。


 その背中を見下ろし、僕はそろそろ聞くことにした。


「で、あんた誰?」

「今聞く? それを今聞く?」

「いや~。久しぶりにボケ倒したからつい調子に乗ったけど……何か色々とあれ~してる気がするんだよね」


 そう。僕は決して忘れていない。だってこの世界に来た時に学んだのだから。


「日本語とか単語なら話せても会話は出来ないって話だったんだけど?」


 全力で漫才してて途中で気づいたよ。


「あはっ。私は漫才の為ならそんな制約ぐらい解除する女よ! 具体的には一発目のハリセンで」

「ならば僕のボケスタートは間違っていなかったってことだ」


 ドヤ? ちゃんと僕はドヤ顔とか出来てますか?


「……と言うのは嘘で、その右手に刻んだ時に解除してました~。プ~クスクス」


 何でだろう。本気で殴りたい。


 四つん這いで燃え尽きていた彼女は立ち上がると、またフードをマントのようにしてバサッと払った。


「まあこれで私の正体が解ったでしょう?」

「前世が漫才師だったんだね」

「そうなのよ~。って違うからっ! まだ死んでないから! 転生じゃなくて転移だからっ!」


 必死に縋り付いて来て力説しないで。


 転生とか転移とか持ちだされると、僕ってその中間になるから微妙なのよね。

 死んで魂だけこっちに来たのは転生? 転移? どっち?


「で、その転移者さんがその魔眼を作った訳だ。漫才したくて」

「そうなのよ~。って違うからっ! 漫才は趣味だからっ!」


 趣味で漫才しないで下さい。付き合う方が苦労します。


「で、漫才したらみんな開放してノイエを元に戻してくれるの? だったら足腰立たなくなるまで相手するよ?」

「そんな訳ないでしょ? 馬鹿なの?」


 鼻で笑って冷めた目を向けて来た。本気で殴りたい。


「貴方にして貰うことは別にあるわよ」


 フワッと飛ぶように離れ……彼女はスッと背筋を伸ばし、両手を広げ胸元に当てた。


「この子の協力を得ずに私が課す試練を見事クリアーしてみせなさい」

「出来たら?」

「ご褒美と」


 スッと指が左目を指す。


「この子たちを全員解放してあげる」

「なら課題をどうぞ」

「即答ね」


 何を言う?


「決まっている。ノイエが望んでいるんだ。それを叶えるのは僕の役目だ」

「そう。嫌いじゃ無いわよ……その言葉」


 クスリと笑い、彼女は僕に課題を告げる。

 そして僕のハリセンが唸りを挙げてさく裂しまくった。




~あとがき~


 色々と台無しだな。この2人はw


 そんな訳で今回の本編はここまでです。

 明日からの追憶編は最終章です。たぶん最終章です。でも前後編の前編ですw


 過去はもう書くこと無いよね?

 刻印さんとかの過去は追憶扱いしないんで。書く気は無いけど書くなら外伝かな?


 で、次の追憶編は演出重視で300文字の話とかあるんで。ぶっちゃけ明日の1話がそれだったりw

 少ない代わりに休まず追憶編に突入です。いつも通り前編が終わるまで毎日投稿します。


 当初は本編(絶望編)から本編(試練編)へと続ける予定でしたが、施設編が100話近くになりそうなので前後編に分けた都合本編も分割になりました。仕方ないんや。シリアスな追憶編は不人気なんや(泣)

 でも施設編が終わったら…次からのSideStoryどうなるのでしょう?



 感想や評価など頂けると作者のやる気がめっちゃ増えます!

 ご褒美でレビューをくれるのが一番嬉しいです。思いのままを書いてみませんか?


 これからも面白くなるように頑張っていくので、応援よろしくです




(c) 甲斐八雲

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