Main Story 13

何かが枯渇しそうなんですけど!

 ユニバンス王国内某所



「クソッ!」


 彼は思わず吐いた悪態に慌てて口を押えた。


 気絶から目覚めれば、魔女もあの化け物共も全員が殺されていた。

『見つかれば自分も捕らわれ殺されるかもしれない』と気付いて焦っているのだ。


 曲がった鼻を軽く腕で擦り、彼は地を這うようにその場から逃げ出す。

 ゆっくりゆっくりと地面を這って逃れ続けると、人の声も何も聞こえなくなって来た。


 這った姿勢を止め座り直し、大きく息を吐く。


 これからのことを考えると憂鬱になる。僅かだが現金はある。

 ふと腰の袋に手を伸ばすと、指先に何かが絡みついた。糸のような物だ。


『何だろう?』と思いながら指に絡みつくそれを外そうとするが増々絡みつく。面倒臭くなって斬ってしまおうと思い腰のナイフに手を伸ばすとそれに触れた。


 グニュッとした何とも言えない感触の生温かな物だ。


「っ!」


 声を上げないように必死に上下の歯を噛み締め彼はそれを見た。

 半壊した魔女の頭部が彼の腰に纏わり付いていたのだ。


「っ!」


 今一度、声を発しなかったのは奇跡だった。

 そして悲鳴を、それから続く現象に悲鳴を上げなかったのは感覚が麻痺していたからだ。


 半分だけの頭が……彼女の片方しかない目が動いて彼を見たのだ。


「……がい……い」


 擦れるような音が響いて来る。


「わたしに……したがい……なさい」


 ギロリと睨んで来る魔女に、男は腰を抜かしながらも頷き返した。


 従うしか無かった。

 人間ではない相手に逆らう気概を彼は持ち合わせていなかった。




 ユニバンス王国王城内



「え~? 自分は~領地の~視察を~してから~新領地に~出向いて~キシャーラさんの~所で~お世話に~なって~ました~けど~」


 やる気も無いから口調もシュシュになる。

 共和国から賄賂を得ている貴族の人たちが物凄い視線を向けて来るんだけど無視だ。


「だから~共和国内の~出来事とか~知らないし~。何より~ハルツェンの~所に~行ったのは~結婚式の時に~結構な額の~お祝いを~頂いたので~ちょっとでも~恩を返そうと~しただけですよ~? そうしたら~ドラゴンを呼び出して~僕とノイエを~殺そうとしたから~抵抗しただけです~」


 シュシュを見習ってフワフワとしながら言ってやる。ただの嫌がらせだけどね。

 ただしそろそろ真面目にこの馬鹿共にちゃんと宣言しておかないと。


「まあ……こっちとしては、正式では無くても同盟国の王族に対してドラゴンをけしかけた共和国に対して文句の1つでも言いたいぐらいですわ~。何よりそんなことをした共和国の訴えを鵜呑みにして僕を断罪するのは、ユニバンス王国の貴族としてどうかと思いますけど?」


 ぶっちゃけフワフワは意外と疲れるから止めて、馬鹿貴族たちを睨みつける。


「まず共和国に『僕がやった』という証拠を持って来いと伝えろ。

 何より僕は良いがノイエにドラゴンをけしかけたことが許せない。これ以上文句を言うなら……"今度こそ"本気で共和国を地図の上から消し去ると教えてやれば良い」


 軽く髪を掻き上げ告げる。


「これ以上言われも無いことで文句を言うなら、味方をしている奴らも含めて本当に消しに行くぞ?」


 言い切って相手の口を閉じさせた。


 そしていつも通りやり過ぎと言うことで怒られるのです。はい。




「納得いかん」

「何がですか?」

「僕はわざわざ共和国までウシェルツェンのことを知らせに行ってあげたと言うのに……共和国内で起きた事件の犯人にされるとか」

「へ~」


 クレアの『この嘘吐きが』って言う目にイラッとする。

 誰かが言っていただろう? 証拠が無ければ良いのだよ。


「そんな訳で僕としては今後二度と共和国と仲良くすることはありません。イラッと来たので決定です」

「です~。あんな国、滅びれば良いです~」


 祖国に対して辛口な発言をするチビ姫は、今日もソファーに座ってケーキを食べている。

 ポーラはその隣で延々と魔法語を紙に書いている。

 いつの間にやら魔法の勉強まで始めるとは、ポーラってば末恐ろしい子。


「何よりこっちはこっちで大忙しなのに」

「ですね」


 クタっとクレアが机の上に上半身を投げ出した。

 気持ちは分かる。流石にちょっと? 結構無茶をした。


「アルグスタ様宛の請求書の山が凄いんですけど?」

「うむ。ちょっと全力で休みを堪能したらこれだ。何とこの世は世知辛いのか」

「……へ~」


 気の抜けきったクレアの声にイラッとしたから、紙を丸めて投げつけておく。

 ボコッと彼女の頭に命中して、サッとクレアが自分の頭を抱えた。


「戻りました」

「イネル~」

「はい?」


 戻って来た旦那にクレアが駆け寄りすがり付いた。


「あの邪悪な上司がイジメるの~」

「クレア。アルグスタ様は良い人だよ?」

「イネルは騙されてるのよ~」


『はう~』と泣き付く彼女の頭を撫でながら、イネル君が済まなさそうな表情を向けて来る。

 ある意味でクレアをちゃんと扱えている。流石夫だな。


「はいはい。クレアもそんな所で夫汁を堪能してないで仕事なさい」

「夫汁って何よ!」

「なら夫臭?」

「違うわよっ!」


 プンスカ怒りながらもクレアは席に戻り、イネル君も席に戻る。

 うん。平常運転だ。

 本当に色々と問題を起こしまわったから今回ばかりは自重しよう。

 つまりは仕事をしながら自宅でノイエを愛でれば……自宅で?


 込み上がって来る恐怖にガタガタと体が震えだす。


 怖い。お家に帰るのが怖い。

 今回は全員手を貸してくれるって言うたのに……ちゃんと請求して来るんだもん。

 そろそろ本格的に僕の何かが枯渇しそうなんですけど!




~あとがき~


 MainStoryの再開です。


 共和国から戻り案の定やらかしているアルグスタでしたw

 で、今回の請求は身内からも…




(c) 甲斐八雲

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