ユーリカも一緒に帰ろう

「おねがい。おねがい……」


 虚ろな目となりユーリカが震えだす。

 それを押さえるようにノイエが抱き付くが、彼女が何かに浸食されて行くように狂って行く様子が分かる。

 カタカタと身を揺らすユーリカが両腕を動かしノイエの首を絞めだした。


「しね……わたしをころしたノイエ……しんでしまえ」

「ゆー」


 本来の彼女の気持ちが残っているお陰が、ノイエの首を絞める力は弱い。

 それでも時間が経てば彼女は力強く締め出すだろう。僕はそれを許せるほど人間壊れていない。

 手を伸ばしそっとユーリカの両肩に力を使う。ガクッと力を失くした彼女の腕が地面に落ちた。


「じゃまをするな……ノイエをころすんだからっ」

「ゆー」


 腕を失った彼女はその口でノイエの首に噛みつく。

 だがノイエは優しく抱き締めて……ユーリカを包み込んだ。


 もう限界だ。


 大きく息をして覚悟を決める。彼女を救うにはもうこれしかないのだから。


「ダメ」


 僕の気配に気づいたノイエが顔を上げる。その首を真っ赤に染めながら。


「ノイエ?」

「ダメ……」


 ボロッと涙を落とし、ノイエは一度鼻を啜った。


「するなら……わたし」

「でも?」

「わたしがする」


 その目から涙を溢れ出しながら、ノイエは真っ直ぐ僕を見た。


「わたしがしないのは、ダメ」

「……」


 本当にノイエは頑固者だな。


「分かったよ」


 何より彼女の望みを叶えるのが僕の使命だ。

 これで彼女が心に傷を得るのなら、人生の全てを費やして癒して行くのが僕のこれからの人生だ。


「ノイエ」

「はい」


 そっと彼女の背後に回り、優しく手を彼女の背に置く。


「全部持ってけ」


 ありったけの力をノイエに注ぎ込んだ。

 全てを受け取ったノイエが力いっぱいユーリカを抱きしめた。


「ノイエ……ころす」


 暴れる彼女にノイエが口を開いた。


「ありがとう。お姉ちゃん」

「……私もよ。ノイエ」


 確かに僕の耳にその言葉が届いた。


「これで……終わり」


 ぎゅむッと相手を抱きしめてノイエの涙声が響いた。

 見る見るユーリカの姿が消えていき……全てを失って自身を抱きしめる格好となったノイエが僕を見る。

 顔をくしゃくしゃにしてボロボロと涙を溢れさせ、そして彼女の顔が空へと向く。


「あっ……あ~!」


 声の限り叫び泣き出す彼女に歩み寄り、そっと地面に膝を降ろして抱きしめる。


「ゆ~! ゆ~!」

「……」


 掛ける声も見つけられず、僕の胸にすがり泣くノイエを抱きしめてその背を撫でる。

 沸々と沸き上がって来る感情は怒りだ。

 ユーリカにノイエの暗殺を命じた人物を僕は知って居る。


《誰に喧嘩を売ったのか……分からせてやるよ。マリスアン》


 絶対に許さない。ノイエをここまで泣かせた人物を僕は許さない。




「どうにかなったわね」


 立ち上がりプルンとその大きな胸を揺らしたホリーは疲れたとばかりに自身の肩を揉む。

 魔眼の中枢である台に腰かけたままだったカミーラは、その顔に笑みを浮かべると立ち上がり背伸びをした。


「本当にどうにかするんだね。彼は」

「ああ。あれがノイエの旦那だよ」

「そうだね。アルグちゃんは幸運の持ち主だよね」


 笑える2人とは違い『アルグスタ』のことを良く知らないエウリンカは、ボリボリと頭を掻くと適当に部屋の隅に移動すると座り込んでから横になった。


「まあ良い。とりあえず次の仕事まで休ませて貰うよ」


 告げてだらしなく眠り出す。


「あれだね~。ミャンが~居たら~大惨事~」

「よね。エウリンカは自身の容姿を把握した方が良いわね」


 美人でスタイルも良いエウリンカが、だらしなく寝る様子は煽情的で妖艶だ。

 同性大好きなミャンでなくても目離せない魅力がある。


「あまり集まり過ぎるとノイエが暴走する。みんな外に……ん?」


 部屋を出ようとしたカミーラはそれに気づいた。

 不意にノイエの目から光が途絶え暗くなったのだ。


「どう……これは?」


 全身から力を無くし、カミーラはその場で膝を着く。

 最初から抵抗を諦めているシュシュは横になり、隣ではホリーが自身の胸をクッションにして伸びていた。


「ノイエの魔力が切れたのか?」


 言葉を発しカミーラも意識を失う。




 抱きしめて居たノイエから力が無くなり、様子を見たら気絶したかのように目を瞑って脱力していた。

 泣き疲れたのか、それともやはり精神的なダメージが大きかったのか。


 辺りを軽く見渡したら、のそっとした感じでナガトが歩いて来る。

 何とも言えない感じでそれを眺めつつ、とりあえず帰り支度を急ぐ。


 散乱しているノイエの鎧を拾い集め、お菓子を詰めて来た革袋に詰め込んで、お菓子は僕の口へと。

 全力で祝福を使ったから空腹が半端無い。


 荷物を背負って先にノイエをナガトの背に上げて僕も昇る。

 背後からノイエを支えて……ズタズタの衣服に僕の上着だけの姿って何かエロイな。


 帰宅は全てナガトに任せて僕はお菓子を食べながら……スンスンとノイエの鼻が反射的に動いている。

 口元にお菓子を運ぶと、バクッと反射的に食べ出した。

 祝福の使い過ぎでガス欠になったのかもしれない。


 そっとノイエにお菓子を食べさせながら、僕はゆっくりと考えだした。

 どうやってあの共和国の魔女に……この際、共和国に今までの恨みを込めて仕返しをしてやろう。


「ノイエはそんなことを望まないかもしれないけどね」


 優しく彼女を抱きしめ直したら、ふとノイエの手に桃色が見えた。

 手を伸ばし確認してみると、ノイエの指の間にはユーリカの頭髪が握られていた。


「そっか……一緒に帰りたかったんだ。ならユーリカも一緒に帰ろう」


 そのままノイエに握らせ、僕らは家路を急いだ。




~あとがき~


 2人の力で永遠の眠りについたユーリカ。

 完全に燃え尽きたノイエは深い眠りに落ち、アルグスタは共和国の魔女に仕返しを企む。


 シリアスに終えて作者は一安心w




(c) 甲斐八雲

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