ノイエの安全と幸せ

「ノイエさん」

「はい」


 向かい合うようにして互いにベッドの上で正座して座り、本日もノイエからの報告を聞く。


「一緒にお風呂。洗った。偉い?」

「良く出来ました~」


 ウリウリとノイエの頭を撫でてやると、そのまま彼女が抱き付いて来て押し倒された。

 頬を擦り付けて甘えて来るお嫁さんが可愛いのです。

 ただね……日に日にポーラの何かが壊れて行くような気がして僕は心配です。


「ノイエ」

「なに?」

「出来たらポーラは1人でお風呂に入れてあげようね?」

「ダメ」


 ムッとした雰囲気を出してノイエが僕の顔を覗いて来る。


「家族は一緒。お風呂も一緒」

「言いたいことは分かるんだけどね」


 よしよしと頭を撫でてやって心の中でため息を吐く。

 これのお陰でポーラはノイエと僕と3人でお風呂に入ることになるのだ。

 年頃の、それもまだ色々と傷跡とかが残っている少女が保護者とは言え異性に全裸を晒す。

 最初必死に抵抗していたが相手が悪すぎて……最後は丸裸にされて脇に抱えて運ばれて来た。


 それ以降ポーラの抵抗は弱くなり、むしろこっちが気を遣うことでどうにかやりくりしている。

 それでもマイペースなノイエには無意味だ。メイドさんに洗い方を習ってポーラを丸洗いにしては、担いで湯船に連れて来る。


 開き直ったのか、悟りを得だしたのか……薄っすら笑うポーラはもう僕のことなど気にしないという雰囲気を今夜辺りは前面に出していた。

 年頃の娘がそんな状況とか色々終わってる気がする。


「ならせめて舐めるのは止めなさい」

「……治ったのに?」

「僕の時はね」

「む~」


 拗ねた感じを出してグリグリと顔を押し付けて来る。

 あの時はリグが出て来て僕の怪我を治してくれたけど、普段のノイエがポーラの傷を舐めても治らない。何よりあれは傷跡だから時間の経過で少しは良くなるかもしれないが消えることは無いと思う。


「そっか」

「はい?」

「ベッドと同じで……」


 言いかけて踏みとどまった。

 これを言ったら最後……僕はノイエに搾られる回数が増えるだけでは?

 ノイエの頭を撫でながら、一度落ち着いてよく考えてみよう。


 ベッドや家具を買ったことでポーラの部屋が新しく作られ彼女は普段そっちに居る。が、やはり心細いのか、夜中になると寝室の前に枕を抱いて立っていることがあった。

 ノイエが気づいて回収して来ては、慌てて服を着るとかコントなことを繰り返したけど。


 毎晩だとノイエと楽しめないので、今は3日にひと晩の割合でポーラが眠りに来る。その時は親子の様に川の字になって仲良く眠る。このシステムをお風呂に導入したら?

 ノイエに貪られる回数が増えるが……場所が変わるだけで全体の回数はたぶん変化無いはず。


「ベッドと同じでお風呂でも2人で仲良くしたいから、ポーラとは別に2人で入る日を作ろう!」

「……」


 結論が出て提案すると、ノイエのアホ毛がクルンクルンと回った。


「どうノイエ?」

「はい。2人で一緒」

「うん。ならポーラには明日の朝に伝えるね」

「はい」


 あとは……今夜のノイエを味わうだけです。




 ガッツリと搾られたけど、今日は色々と耐えた。頑張った。感動した。

 すぅーっと静かな寝息を立てているノイエの前髪を軽く退かしてそっと口を開く。


「ユーリッ」


 続きの言葉を敢えて濁らせて……後は誰が出て来るのか反応待ちだ。


 ベッドから起きて寝間着を着て、ノイエの寝間着も畳んで彼女の横に置く。

 セシリーンが居るらしいから、僕の意図を把握してくれれば良いんだけど。


 待つことしばらく、不意に上半身を起こしたノイエが片膝を立てて赤い髪の頭を掻く。


「……酒は?」

「第一声がそれとかどうなのよ?」

「良いから寄こしな」


 軽く肩を竦めながらも置きっぱなしの蒸留酒に手を伸ばす。何故か1本封を切られているんだけど……犯人は誰だ? 先生はワイン派だし、たぶん犯人はノイエの中に居るっ!


「……幾らしたんだ?」

「さあ? 姐さんの為に値段なんて見ないで買いましたから」

「全く……嫌な旦那だな」


 手渡した酒瓶の封を噛み切って、アルコール度数の強いお酒を彼女は一気に煽る。

 グビグビと喉を鳴らして……半分は飲んだか?


「ああ……良い酒なのに美味く感じないのは嫌な名前をセシリーンに聞かされたからだろうな」

「ですか」


 ベッドの端に座ると、彼女が酒瓶を投げて寄こした。

 だからこれは本当に強いんだって。軽く舐めただけで何かが沸騰しそうになったよ。


「無理っ」

「だらしのない」


 丁重に送り返すと、彼女はまた一口煽る。


「なあ旦那」

「はい」

「どこでその名を知った?」


 感情の無い視線を彼女……カミーラが向けて来る。


「答えても良いけどノイエに伝わらない?」

「……気づいたのか?」


 軽く鼻で笑って彼女がこっちを見る。


「はい。だって僕もノイエのことを愛して止まない人間ですから。だから常に考えることは『ノイエの安全と幸せ』です」

「悪く無いな。お前にだったらもう全部話しても良い気がするんだけどな」


 また笑ってカミーラが酒を煽る。


「……念のためにあの名前は口にするな。正直魔眼のカラクリはアイルローゼですら解読しきれてない。ここでの会話がノイエに本当に届いていないという確証は無いんでな」

「分かりました。なら今日合ったことから」


 包み隠さず人名を除いて僕は彼女に告げた。




~あとがき~


 ノイエお姉さんの優しさと家族像が暴走しています。頑張れポーラ。

 で、ユーリカの名前で出て来たのはカミーラでした




(c) 甲斐八雲

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