おまえのめだまをくりぬくって

「どうだった?」

「……はい」


 グシグシと目を擦るポーラはどこかまだ寝ているようにも見える。

 あれとは無事に会えたのなら良いけど……サボってないよな?


「会えたと言うか聞こえた?」

「はい」

「それで何て?」

「『ひょうけつ』と言われました」


 ひょうけつ? 氷結かな?

 氷に関する祝福ってことか。


 借りた聖布を畳んでしまいながら、先に片付けた聖盆を見る。驚いたことにポーラは魔力持ちだった。

 祝福を得て魔力まである人間って、場所によったら英雄扱いらしい。

 つまり僕は英雄になれる素質があるのだ。まあ祝福だけで十分狙える地位だけどね。


「そっか。ならポーラを確り育てないとな。僕が楽が出来るように」

「……がんばります」


 ギュッと両の拳を握ってポーラがやる気を見せる。

 と、目線が合ったら何故かポーラが顔を蒼くして視線を逸らした。


「どうかしたの?」

「はい。その……つたえてと」

「何を?」

「はい」


 顔を上げたポーラが口を開いた。


「こんどあったらおまえのめだまをくりぬくって」


 言葉使いが幼いから柔らかく聞こえるけど、告げられた言葉はとんでもない内容な気がするぞ?


「だいじょうぶです。にいさまは……アルグスタさまはわたしがまもります」

「そっか。ポーラは良い子だな」


 ウリウリと頭を撫でてやる。何よりちょっとあれだな。


「ポーラ」

「はい」

「兄様って言ってみて」


 蒼かった顔色が紅くなった。


「にい、さま」

「……」


 何だ? この言いようの無い感覚は? 良く分からんが当社比3倍ぐらいの衝撃を胸に受けたぞ?

 年下の子が純粋に慕う威力がこれほどとは……悪くない。


「良し。分かった」

「……」

「今日から兄様と呼ぶこと。良いね?」


 と、ポーラが驚いた様子で顔を上げた。


「いいの?」

「うん。ノイエが姉様なら僕が兄様じゃ無いとね」

「……はい」


 俯いたポーラが小さな声で返事をくれた。




「遅いっ! 何日遊んでるのよ!」

「失礼だな。仕事だ仕事」

「だからって戻って来たのなら……誰?」


 最近色々と礼儀を忘れつつあるクレアが僕の後ろに居るポーラに気づいた。


「しばらく勉強してからになるけど、ウチの新人になるポーラ」

「……ふ~ん」


 何故か値踏みするかのごとくにクレアがポーラを観察する。

 特に胸回りを確認しているのは僕の目が腐っているのだろうと思おう。それが優しさだ。


「小さいしほそっ!」

「だからクレアの腹の肉でも」


 拳を握ったクレアが攻撃して来た。


 幼児体型じゃなくてやはり肥えて来ていたのかね?

 少しは頑張らないと旦那に愛想を尽かされるよ?


 額に手を当ててクレアの攻撃を回避する。

 マンガじゃあるまいしグルグルと腕を回しても普通当たらんぞ?


「それで旦那は?」

「イネルなら各部署を回ってるわよっ!」

「そか。だったらクレアで良いか」

「何よっ!」


 今日はやけに噛みついて来るな?


「あの日か?」

「この~! 死んじゃえっ!」


 グルグル攻撃が再開されてまた相手の額を押さえる。

 そうだった。クレアのあの日は重いから身動きが取れなくなるんだったな。


「つまり欲求不満と言う訳か」

「言うに事欠いて~!」


 三度のグルグルも以下略。


 燃え尽きたクレアが床に突っ伏す姿を見て、ポーラがとても不安そうにこっちを見て来る。

 皆まで言うなポーラよ。これが特殊なだけだ。


「ポーラ。そこで伸びてるお姉ちゃんに挨拶」

「……ポーラです」


 後頭部を晒している相手に律儀に頭を下げるな。起き上がるタイミングを失ったクレアがどうしたら良いのか分からなくてプルプルと震えてるぞ?


「にいさま? ここは?」

「ここは僕の執務室です」

「って兄様って何よ!」

「です~!」


 起き上がったクレアと、壁を押して飛び出して来たチビ姫が騒いだ。煩い奴らだな。


「ポーラはしばらく僕らで預かることにしたの。ポーラの相手をすることでノイエが何かを学ぶかもしれないしね」


 唯一の問題は中の人たちだけど……まあどうにかなるでしょう。

 僕との結婚前は、ノイエは王城内の離れに住んでたんだし。


「だから今日はお祝いを兼ねてケーキでもと考えて居たんだけど、イネル君が戻って来るまで」

「大丈夫です。イネルだったらあとでわたしが甘々にします!」

「ケーキです~。ケーキです~」


 騒ぎ出した2人が待機しているメイドさんに声をかけて勝手にケーキを注文しだした。


「アルグスタ様は何を食べますか?」

「旬のもので良いや。それと帰りに店舗に寄ることを伝えておいて」

「は~いです~」


 メイドさんにあれこれ注文している王妃よ? ちょっと容赦ないぞ?

 ただポーラだけがこのノリを理解出来ずに棒立ちしている。普通にない雰囲気だしな。


「クレア。ポーラ用に軽めな奴を頼んでおいて」

「はい。ならこっちのロールケーキとかですかね?」

「あれって意外と重いよ?」

「大丈夫です。ケーキを食べる女の子は羽が生えて軽くなるんです」

「ですです~」

「替わりに胸が……何でもないさっさと頼め」


 両手を胸に当てて怨嗟の籠った目を2人が向けて来たから、これ以上の危険からは逃れることにした。と、何故かポーラも自分の胸に手を当ててこっちを見ていた。


「ポーラはまだ育つ可能性があるからな。この中で1番だ」

「アルグスタ様? わたしを見て言ったその言葉の意味を教えて欲しいんですけど?」


 この部屋の少女たちの中で最年長者が何やら寝言を言い出したな。

 決まっているだろう? 後はもう妊娠でもしない限り君の年齢だと胸の成長は絶望的なのだよ!


 言ったら面倒臭いことになりそうだから、その言葉は全て飲み込むことにした。




~あとがき~


 ポーラの祝福は氷結です。そしてアルグスタの暴言の数々を決して聞き逃していない存在がw

 人妻なのにお子様な2人がケーキを前に大暴走。ある意味デフォっすね




(c) 甲斐八雲

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