見られたです~
「お呼びでしょうか? 陛下」
国王陛下の執務室に入ると、お兄様がソファーに座って寛いでいた。
珍しい物を見た気がするが……オフのお兄様とはほとんど出会わないしな。
「今は誰も居ない。気を張らなくても良いぞ」
「そう言われても……余り緩めすぎると普段から緩くなりそうで」
「それは自身で気をつけることだ」
心温まる姉妹の様子を眺めていたら、国王付きのメイドさんがやって来て陛下からのお呼び出しを食らった。
特に急ぎでは無いらしいので、書類にサインを入れてからのんびりとやって来たのです。
「それでご用件は?」
「ああ。お前に依頼した件はどうなりそうか?」
依頼した件とは……つまり先生への依頼だよね?
「……丁度良いと言えばちょうど良いのかな」
「何か?」
「はい。実は"あの人"ってとても気分屋なので、前回の交渉で出過ぎたからしばらく休むと言って」
「出て来ないのか?」
「はい」
ごめんなさい。嘘です。
でも今はこうでも言って回避するしか無いんです。
軽く頷いてお兄様がこちらを伺って来る。
「呼び出す方法は?」
「無いですね。基本向こうの気紛れ待ちなので。ただプレートを机の上に置いておけと言われたので、気が乗ったら刻んでくれるとは思いますが」
「で、あるか」
ため息をついてお兄様がまた頷いた。
実を言うと……1枚だけ身代わりのプレートはあるんですよね。先生がフレアさん用のと一緒に刻んだのが。
ただそれは何かあった時にと言われているので、昨日受けて今日提出するのは流石に早すぎる気がするからもう少し経ってからにしよう。
「まあ待つしかないのなら仕方ないな」
「はい」
「それでアルグスタよ」
「はい?」
「お前の腕のプレートの謎は解けたが、あの魔道具はどうしたのだ?」
忘れてないでやんの。このお兄様ってば。
「あれはグロ―ディアの住んでいた屋敷で見つけました」
「経緯を聞こうか?」
「はい。僕は先生と出会ってから10年……11年前のことを調べるようになりました。それでグロ―ディアが住んでいた屋敷をノイエと2人で訪れると、先生が出て来て『ここに何かある』と言ったので」
「それで発見したと?」
「はい」
「……なるほどな」
大丈夫。それっぽく聞こえるな。
ちゃんと日数を得て言い訳を考えられれば前回みたいに八方塞がりは無いのだ。
「ではお前があの日王都から消えたのは、彼女がそれを使ったからだと?」
「自分はそう思ってます。事実あの日、転移した先で僕を出迎えてくれましたし」
「そうか」
確かに出迎えたくれたな。グローディアが。
「そんなにグローディアが生きているのって危ないのですか?」
ふと気になって質問をしてみた。
その問いにお兄様が、何とも言えない苦笑を見せる。
「……危なく無いと言えば嘘になる。生存しているのならば、確実に保護して隠したい」
「殺すのではなく?」
「うむ」
頷いてこちらを見る。
「ハーフレンやフレアを見ていて、あの日のことは一瞬気が触れたとしか思えんしな」
「それか何かしらの魔法の効果とか?」
「ああ。そう言う説を唱えた者も居る。ただ国と言うか、この地域全てで同時に発動する魔法など不可能であろうからその説は論じられていないがな」
「そうですね」
「ただ……やはりあの日、何かがあったことは間違い無いのだろうが」
言ってお兄様はパンパンと手を叩いた。
「お呼びでしょうか?」
「アルグスタを連れてあそこへ向かう。支度を」
「はい」
一礼をしてメイドさんが立ち去った。ってどこに行くの?
「ご用があって呼ばれたんでしたね」
「忘れるな」
苦笑いをして立ち上がった兄に従いその後ろを歩く。
「実はお前に1つ仕事を頼みたくてな」
「仕事ですか?」
「そうだ。本来ならハーフレンの仕事であったが、今のアイツは」
「ええ。話は聞いてます」
何でも密告のあった施設を襲撃したらもぬけの殻で、代わりに資料を山のように拾って来たとかで大忙しだとか。
「死に物狂いで働けば良いんですよ」
「……お前はハーフレンには厳しいな」
「厳しいというか、前回の件でどれ程苦労させられたか」
「……十二分に楽しんでいたように見えたがな」
心外です。結局王都から勝手に外出していたことがバレて各方面から苦情を受けたし、書類仕事だって山のようにさせられたしね。
ただ僕の部下たちはちゃんと仕事の出来る夫婦だから窮地に追い込まれなかっただけ。
『仕事が終わらなければ自宅に帰さん!』の脅しに、イネル君に甘えたいクレアが死に物狂いで頑張ってくれたんだけど。
「それで仕事とは?」
「ああ。それを説明するための移動だ」
「そうですか」
黙ってついて行くと、城の奥深い部屋に案内された。
扉を開けたお兄様に中に入るように促され入ってみたら、
「こっちな気がするのです~」
地図を広げた机の上で、四つん這いになって這いまわるチビ姫が居た。
今日の下着は黒か。まだ君にはその色は早いぞ。
「これが仕事ですか?」
「……」
来客者に下着を晒している自身の正室に、流石のお兄様も額に手を当てて動きを止めたよ。
「あっ……シュニット様とおにーちゃんです~」
「これキャミリ―」
「は~いです~」
いそいそと机の上から降りたチビ姫が夫であるお兄様の元へと向かった。
年の離れた兄妹にしか見えないが、夫婦なのだから仕方ない。
「もう少し落ち着いた色の物の方が良いぞ」
「……見られたです~」
お尻に両手を当てて顔を紅くして王妃様が照れる。
下着に関してはお兄様と同じ感性だと知ってちょっと嬉しくなった。
~あとがき~
そして安定のチビ姫でしたw
(c) 甲斐八雲
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