最初から諦めているわ

 立場が逆転し、シクシクと泣いているミローテをリグが慰める構図となっていた。

 それから視線を離してシュシュは次なる標的を見た。

 ソフィーアは……遠距離恋愛中だとミャンから聞いているのでこの手の話をさせるのは可哀想だ。ならばここはやはり興味の尽きない存在へ。


「フレアは~王子様と~何処まで~?」

「……何処までって何ですか?」

「もう~キスとか~?」


 バッと真っ赤になったフレアが、全力でその顔背けた。

 内心ガッツリと冷や汗を流しながら、シュシュは『まだ大丈夫』だと判断し危険領域へと踏み込む。


「まさか~一緒に~寝たり~とか~?」

「っ!」


 ソファーの上で正座した少女が、全力で半回転して背中を向けて来る。

 自分のこの後の身を案じ泣いていたミローテですら驚きの余りにフレアを見つめる。

『そんなことは無いはず!』と、若干恐怖を覚えつつもシュシュはもう一歩踏み込んだ。


「一緒に~お風呂~とかは~流石に~……フレア~?」


 頭を腕で覆いソファーの背もたれに体を押し付けだした少女を見つめ、シュシュはもうこれ以上の追及は止めようと決めた。

 これ以上聞いてしまって、もし……頷かれようことがあれば、フレアよりも相手の王子の何かを疑いたくなってしまうからだ。


「……フレア?」

「はい先生っ!」


 反射的に顔を上げてしまった少女は、とても寒々とした視線を向けて来るアイルローゼと目を合わせた。


「ちなみに今の3つで……どれが最初なのかしら?」

「……お風呂です」


 ガタッとソファーから転げ落ちそうになったのはミローテだ。

 ソフィーアは遠い目をして妹のように思っていた少女を見つめている。


「でもわたしの場合……彼とは一緒に育ったので、一緒にお風呂と言うのは」

「兄妹で入る感じかしら?」

「はい」


 何となく部屋の中に安堵の空気が広がる。

 兄妹なら納得だ。兄妹ならば。


「なら一緒に寝たのも同じ理由かしら?」

「……はい。わたしが彼の部屋に行ってそのまま寝てしまって」

「何となく分かるわ。フレアは甘えん坊だしね」


 また一段と安堵の空気が広がる。

 それだったら健全だ。兄妹で一緒に寝ることもあるだろう。兄妹なら。


 話すフレアも周りの空気が改善されて行くことを感じ、胸の中でアイルローゼに感謝していた。

 先生は本当に優しくて、


「それでキスは?」

「はい。わたしから彼に……はっ!」

「意外と貪欲なのね」

「はぅぅぅぅ……」


 顔を真っ赤にしたフレアがまたソファーの上で身を丸めて姿を隠した。

 兄妹のように育ったとはいえ、妹が兄に対してキスを求めるのはどう考えても……倫理的にダメだ。


「フレアは~恐ろしい~子だね~」

「はぅぅ」


 完全に沈黙しフレアは置き物と化した。




「ん~。なら~リグは~?」

「ん?」

「リグは~好きな~人とか~居るの~?」

「お父さん! アイルも好きだよ」

「だね~。これが~健全~だ~ね~」


 うんうんと頷いて癒しを得たシュシュは、今回の最大の難所である相手に顔を向けた。


「シュシュはどうなのよ? 結局ミャンの恋人なの?」

「……違うよ~」


 魔女に先手を打たれたシュシュは、フワフワしながらそう答える。


「何か~ミャンの~恋人~扱い~されてる~けどね~」


 事実その話は何度となく聞かされている。しかし事実は違う。


「わたしは~ミャンと~幼馴染で~恋人じゃ~ないよ~」


 フワフワを止めて、シュシュは言葉を続ける。


「ミャンの部屋に良く行くし一緒のベットで寝たりもするけど、フレアの言ってた姉妹みたいな感じかな? ミャンは基本わたしを触ったり抱き付いたりしないしね。抱き付かれた回数で言うと、私よりもここに居る人たちの方が多いかも?」

「以外ね。ミャンならもっと貴女に抱き付いているんだと思ってた」

「あはは~。無いね~。だって~幼馴染~だしね~」

「そう。ならミャンはどうして同性愛者に?」


 ピタッと止まったシュシュが、絞り出すように言葉を発した。


「初恋の相手を奪われたんだよ」

「へ~。それで?」

「可愛い顔をした男の子に」

「「……」」


 シュシュを除いた全員が、生温かな目をした。


「それで男性不信になって、歳を重ねるごとにドンドン悪化させて……結果としてあんな風になったんだよね」


 フワフワを再開させてシュシュは息を吐いた。


「あれは~死んでも~治らないね~」

「ええ。だから今度抱き付いて来たらその短い人生を終わらせてあげると伝えておいて」

「アイルローゼが~そんな~ことを~言うと~本当に~聞こえる~から~怖いな~」

「私は本気よ。嘘か誠かを確認したいのならいつでも来なさい。その時を命日にしてあげるから」

「逃げろ~ミャン~。アイルローゼが~結構~本気で~怒って~いるぞ~」


 窓の外に顔を向けてシュシュは幼馴染の身を案じた。


「ならシュシュには恋人なんて居ないということね。一般の出だから許嫁とかも居なそうだし」

「……何故か~胸を~言葉で~抉られた~ぞ~」


 自身の胸を押さえてシュシュがフワフワする。


 しかしそんなことで屈するシュシュでは無い。

 どんな攻撃も逃げるか避けるかがシュシュの持ち味だ。直撃を受けてもそれを相手に気づかせないのも持ち味なのだ。


「なら~アイルローゼは~どうなんだ~?」

「私?」

「だぞ~。そんな~性格だと~アイルローゼも~一生~独身だ~ぞ~」

「失礼ね。私に対しての見合い話は引っ切り無しよ」


 流石の言葉に部屋の中が凍った。


「それに私の場合はこの力でしょ? 自分の意思に関係無く、国からの命令で結婚させられるわ」


 バタッとミローテがソファーから落ちて床に伏した。


「私にはたぶん皆と違って恋愛の自由なんて無いのよ。だから最初から諦めているわ」


 そう告げて魔女は少し寂しそうに笑った。




~あとがき~


 最初に言った通りアイルローゼはいずれ自分が本意ではない相手と結婚させられると理解しています。ただこの性格なので、結婚しても手すら振れさせないでしょうけどw

 シュシュとミャンは幼馴染でシュシュの話が本当なら恋人関係とかじゃありません。

 腐れ縁でずっと一緒と言う訳ですけど…それでもミャンの方はシュシュに対して色々とあるんですけどね




(c) 甲斐八雲

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