やりすぎだって
おーおー。何でこうボスクラスの敵って宙に浮かびたがるのかね?
普通に考えれば狙い撃ちされたい放題で良くないと思うんだけど。
「ノイエ~」
「あむ」
「あれにでっかい光……明かりの魔法を投げてあげて」
「……はい」
両手を掲げたノイエが掌に特大サイズの明かりを作り出す。
流石にこっちの意図に気づいた竜人が焦って守りを固めようとしているけど……やはり馬鹿だな。
それより彼女が持っていた2斤パンはどこに消えた? まさかの胃袋ですか? 飲むようにパンを食べないでノイエ。出来たらちゃんと噛もうよ~。
「えいっ」
軽い掛け声の割には笑えないサイズの照明が竜人にぶつかった。
「あぎゃ~!」
「おーおー。たっまや~」
「たまや?」
「気にしなくて良いです」
「はい」
疑問など瞬時に忘れてノイエは食事に戻る。
あ~。ノイエの食事風景を見ているだけで癒される。
「ふざけるな~!」
「あっ生きてた?」
「これぐらいで死ぬとでも思ったか!」
墜落し石の地面に激突したようにも見えたが……やっぱり頑丈だな。
だけどそこそこのダメージを受けているように見えますが?
「あんまり頑張らない方が良いよ?」
「何がだっ!」
「ノイエの魔力は無尽蔵だから、今ぐらいの明かりを連続で投げ続けられます」
「……」
流石に相手もこっちの意図に気づき怯んだ。
無尽蔵って言うのは嘘だけど、はったりって大切だと思う訳です。
「竜司祭バルグドルグさんだっけ?」
「それがどうした!」
「自分のことを『暗竜』とか名乗っちゃダメだと思うよ」
馬鹿な相手が物凄く睨んで来るけど、そんなの気にせず適当な石に腰かけて言葉を続ける。
「もしかしたらだけど……君は僕が知る異世界の言葉、『暗』つまり『暗い』の意味を持つドラゴンなんじゃないの? だったら対照的な攻撃をすれば良い訳だ」
「……」
図星だったのかを牙を剥いて怒ってる。
普通なら日本語なんてこっちの世界では知られていないはずだしな。
ん? それはそれで大問題な気がするが……まっ今は良い。
「そんな訳でお前が消えるまで照らし殺すことも出来るけど……どうする?」
実行したら中々恥ずかしい死因だな。殺害方法は照明の浴び過ぎですとか。
竜人は肩を震わせ、そして声高らかに笑った。
「ハハハハハ~! 愉快愉快。本当にそんなことでこの私が殺せるとでも?」
「まっ普通なら無理だろうね。それなら暗竜の力を隠せば良い」
実に簡単な対処法です。
「……ならどうしてそのような戯言をっ!」
「決まってるでしょ? うちのお嫁さんが食事中だから時間稼ぎだよ」
「なっ……そんな理由で?」
「僕にとっては重要よ」
座っていた石からお尻を離すと、食事を終えたノイエが軽く肩を回していた。
「どうノイエ」
「……食べ過ぎた」
「なら少し運動しようか」
「はい」
お嫁さんもやる気みたいだな。さて、
「で、馬鹿兄貴は生きてるの?」
「おう」
「ちっ」
「その舌打ちは何だ! アルグっ!」
「確り殺されておけよ全く」
「お前後で覚えてろよなっ!」
吠える馬鹿兄貴を見つけたけど、完全に人質を取られてやられたい放題か。
ってフレアさんも傷だらけ?
「ちょっと……何で救出しに来た人が傷だらけなのさ! 救出舐めてる?」
「こいつ等に言えよ」
「あっそう」
知らないオッサンが二人。一人は馬鹿兄貴の傍に居て、もう一人はフレアさんの傍か。
右耳の下を軽く叩いてノイエの術式を発動させる。
「……フレアさんを救って」
「はい」
消えたノイエがフレアさんの傍に現れる。
剣を向けようとしたオッサンを殴り飛ばし、フレアさんを脇に抱いて戻って来た。
「はい」
「良く出来ました」
「……はい」
ウリウリとノイエの頭を撫でてあげると、馬鹿兄貴が笑い……そして凶悪な表情を浮かべた。
「ゾング? 何やらいっぱい遊んでくれたよな?」
「えっあっ嘘だ……」
何が起きたのか分からずゾングは辺りを見渡す。
聞いていた話ではあのドラゴンスレイヤーの娘は、ドラゴンを見るとそっちに掛かりっきりになるから自分たちが襲われることは無いと聞いていた。それが何故?
バキバキと指を鳴らして迫りくる相手に、ゾングは体の芯から恐怖に震える。
相手はあのゴブリアスを殺した人物だ。自分と比べ物にならないほど強い。
「待て……待ってくれ」
「ああ。この世の別れぐらいの時間はやる。さっさと済ませろ」
「……嫌だ! 死にたくないっ!」
恥も外聞もなく彼はそう叫びそして命じる。
「この男を殺せ! 小娘っ!」
と、ノイエが脇に抱えていたフレアが動き出す。
「ノイエ」
「はい」
「フレアさんに明かりを」
「はい」
夫に命じられるがノイエは暴れる荷物に明かりの魔法を使う。
増々暴れたので非難がましい視線を彼に向けた。
「アルグ様?」
「あれだ。明かりが弱かったんじゃない?」
「……」
自分のせいにされたノイエは、全力で明かりを灯す。
ちょっとこんがり良い匂いがして……荷物が動かなくなった。
「ん」
「ノイエ……やりすぎだって」
「平気」
「ダメだって」
白目を剥いて気絶しているフレアを見て、流石のアルグスタも嫌な空気を感じる。
ただし彼は決して竜人から目を離していない。動けば即座に対応する気で右手に小石を握っていた。
しかし竜人バルグドルグは彼らの行動を眺め笑っていた。
無駄な足掻きをしていると言いたげに。
~あとがき~
そろそろアルグスタ無双が始まるね。竜人さんはただの噛ませ犬になるのか?
(c) 甲斐八雲
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