美人がすると罪にならないらしいわよ?
「これは……凄いわね」
「はい」
一糸纏わない状態となったリグをアイルローゼを中心に弟子たちも一緒になって見つめる。
紹介では8歳と聞いていたが……確実に膨らんでいるリグの胸を見て、フレアたちは自分のとを確認し負けを認めた。
でも大丈夫。これから育つはずだから問題は無い。
胸よりも見るべきは彼女の体……首から下だ。
褐色の肌を覆いつくすように入れ墨が施され、その全てが魔法式となっているのだ。
「発想の転換ね」
「どう言う意味ですか?」
「ん? 私たちは自然と魔法式を作る時にどれほど小さく効率よく出来るのかを追求する。それは持ち運ぶことや少ない魔力で発動できるなどの利点を得る為によ。でもこの世には大規模な術式や魔法式も存在する。それはあくまで大きな力を複数で使うことを前提にしているから。
なら個人が持つ全ての魔力で個人が扱える最大の魔法式を発動したらどうなるのか? 私も一度は考えたことはあるけど実行しなかった研究の成果がこれよ」
面白い発想の新しい魔法式に触れて師であるアイルローゼはらしく無いほど饒舌だ。
必死にリグの魔法式を書き写しているのは弟子であるソフィーア。もう1人のミローテは入れ墨で刻まれている魔法語を書き写している。
絵ではソフィーアには勝てず、解読ではミローテに勝てない。自ずとフレアは師の話し相手を務めるのだ。
「ここのお尻と腰の所のこの魔法式なんて特に凄い。たぶんこれはリグが持つ魔力を高める魔法式だと思う」
「魔力を高めるって、学院内でもほとんど成功例の無い魔法式ですよね?」
「ええ。確か同期のシューグリットの研究が一番進んでいるはずよ。でも彼ですらここまでの物は作れていないはず」
褐色の肌に描かれている入れ墨をアイルローゼは指をあててなぞる。
「あの……くすぐったいです」
「我慢して」
「……はい」
リグの不満も研究対象を前にしたアイルローゼには届かない。
「でもおかしい。たぶんこれだと……どこか他にこれとこれを繋ぐ魔法式があるはずよ」
ブツブツと呟いてアイルローゼはリグの足を、その太ももを両手で掴んだ。
「足を広げなさい」
「それはちょっと!」
「……強引に開かれたい?」
「……ぐすっ」
褐色の肌を真っ赤にしつつもリグはゆっくりと足を開いて行く。
太ももの内側に描かれていた魔法式を見つけ、アイルローゼはそれを指でなぞる。
「見難いわね。ちょっとそこの机の上を片付けてくれる?」
「先生。それは流石に」
「なにっ?」
ジロッと睨まれて彼女の暴挙を制止しようとしたフレアもあっさりと屈した。
強引に机の上に寝かされたリグは、顔を手で覆いグスグスと泣きながら全開まで股を開いた。
「やはりね。恐ろしい発想だわ」
『そこまで確認するの?』と思いつつも、余りにも生々しい状況を見て……顔を真っ赤にさせて視線を逸らしていたフレアが師の言葉に反応を示した。
「先生? 恐ろしいって」
「言葉通りよ」
確認は終わったと言いたげに、写生は弟子に任してアイルローゼは自分の席へと戻る。
「普通に考えて……女性は子供を産むことが出来る」
「はい」
「その体の構造を魔法に転用しているのよ」
「転用ですか?」
「ええ」
言ってまた立ち上がったアイルローゼは、黒板に絵と言葉を書き出す。
「まずリグが舐めた血液から相手の体の情報を得る。その情報を元に治したい所の正常だった記憶を読み取る。それと同時に彼女の子宮内で治療に必要な力を生成し、それらを舌……つまり唾液に宿らせて治療する。女性の体、人体を作り出す揺り篭を使った禁忌に抵触する悪しき魔法よ」
パンと手を叩いて、アイルローゼは床に転がっている医者を見る。
完全に拘束させられている彼は、微かに顔を赤毛の天才へと向けた。
「国家機密の塊みたいな魔法技術をこれでもかと詰めた存在……どこで拾ったの?」
軽く指を振って一言呟く。医者の口の束縛だけ解除された。
「……我の必死の研究をこんな短時間で解明しおって」
「答えなさい。少女に対する変態行為で衛兵に突き出すわよ?」
「お前がやっていたことの方が罪であろう!」
「知らないの? 私みたいな美人がすると罪にならないらしいわよ?」
「見た目だけで、お前の性格は……止めろっ! どこを踏もうとしている!」
「男性の体外に存在する内臓の1つね」
容赦なく医者の股間を踏みに行ったアイルローゼの本気に彼は屈した。
何よりアイルローゼはやる。その気になれば本気で踏み抜くのが彼女なのだ。
「息抜けに同僚たちと繁華街に行った」
「変態仲間?」
「話の腰を折るなら言わんぞ? 止めろ! 踏むな!」
ダンダンと床を踏む音が響きキルイーツは完全降伏した。
「そこで奴隷商人が居てな……興味本位で声を掛けたのだ。すると全身の刺青のお陰で売れ残っている少女が居ると言われてな。プレートの代わりに入れ墨を用いると言うのは我らの知識では一般的だろう? 見せて貰ったら彼女だったのだよ」
「それで買ったの? 嫌ね本当に」
不潔と言いたげにアイルローゼは冷たい視線を浴びせる。
「まああれが魔法式で無くても買ったやもしれん」
「何故よ?」
「……売れ残りの少女の奴隷は娼婦にするしかない。だが全身刺青のあの子に客が付くか? 良くも悪くも長生きできないのなら買って育ててやるのも悪くない。我は独り身だしな」
言って笑う医者にため息を吐いたアイルローゼは……彼を拘束している魔法を解いた。
そんな一面を見せる大人はズルいと心の底で少しだけ思いながら。
~あとがき~
リグの秘密が暴露されて行きます。
自身の知らない知的好奇心を満たすことが出来るのであれば、アイルローゼ先生は容赦しません。
彼女を全裸にしようが、普通晒さない部分でも無理やり開いて確認します。だってそこに『未知』があるのだから!
ちなみに全身刺青の方法が流行らないのは、その魔法式を奪う行為が野蛮すぎるから。
生皮を剥ぐしか方法が無く、何より映像保存技術が無い世界なので腐ってしまう。色々と最悪なので普通は使わないんですが、リグの場合は嫌がらせの産物と父親の独占が主な理由。
この辺はいずれ追憶③辺りでリグが語るでしょう。うん語るよね?
医者の先生はリグの刺青がただの刺青でも買う気でいました。
根は良い人なんですよ。あの日ハーフレンの言葉に反応したのは、子供を大切にする気持ちが強かったからです。
…でも覗き魔です。今も元気に覗きに行ってはアイルローゼに殺されかけてますから!
(c) 甲斐八雲
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