同類です

「さあここからは少し真面目な話をしようかね。

 2人には刺激が強い話だから覚悟を決めて、勇気を得られる態勢になって良いよ」


 生暖かく見つめてあげると、勇気を出してイネル君が彼女の手を握る。

 だがそれをスイッチにクレアは彼の腕に抱き付いてこっちを見つめて来る。

 と言うか睨むなよ……さっきの話をもう忘れたの?


「はいはい。それで良いのね? では発表します。

 クロストパージュ家当主が自分の娘を庇い男気溢れる少年の行動を見て、その少年に対し庇われた娘との婚約を、一緒に見ていたヒューグラム家当主に申し出て、一緒に居た国王陛下が承諾して正式に決まりました。

 君たちの親が君たちの婚約を正式に決定したんで……貴族の子供なら婚約って言う言葉がどんな意味を持っているか説明要らないよね」

「「……」」


 ポカンとした様子で2人が見つめて来る。


「分かって無いの? 親が決めたこととは言っても、その2人はもう結婚を前提とした『婚約』だから別れることは……結婚してからじゃなきゃ無理だね。

 ただ上級貴族同士だから離婚自体は無理かな。家庭内別居して貰ってお互い愛人を囲うとかしか」

「って何の話よっ!」


 クレアが顔を赤くしてイネル君に抱き付いて絶叫する。

 おおう。何か脱線してしまった。大人の世界は色々とあるのだよ。我が家には必要無い話だけど。


 プルプルと震えだしたクレアがポロッと涙を落した。


「どこからよ」

「はい?」

「どこから見てたの!」

「決まってるでしょ? 最初からです。あの場所でああなるように手配までしましたが、何か?」

「っ!」


 イネル君に抱き付いている手はそのままに、もう片方の手をきつく握ってブンブン振る。

 ようやくここに来て全てのことを理解したらしい。


「相手の親と君たちの親を王都に呼んで、陛下たちと一緒にあの場面を見て貰いました。

 まあ僕を敵に回したんで色々とあれ~な目に遭って貰ったけど……僕以外にも色々と企んでいた人が居てね。お蔭でちょこっと仕事が増えたけどね」

「「……」」


 どんな反応をしたらいいのか分からなくなったクレアは、とりあえずイネル君に抱き付いて甘えている。頭突きからのゴリゴリで、顔色を蒼くした彼の身を軽く案じてしまう。

 あれを恋人……を通り越して婚約者からの結婚相手にする彼の将来が心配になった。


「で、話が最初に戻って君たちの婚約って話になりました。はい質問をどうぞ」


 激痛に耐えるイネル君は何も言わない。だがクレアがジロッと僕を見た。


「最初から見てたの?」

「はい」

「……誰と?」

「この国で上位に入る人たち全員ですね」

「……」


 手を伸ばして靴を脱いで掴んだクレアが、それを投げつけて来た。


「なら最初っから助けなさいよっ!」

「ごもっともです」


 頭に一撃を受けながら素直に認めた。




 ユニバンス王都を眺められる丘陵からそれは城を見つめていた。

 郊外なのもあって人の目は無いが、その存在は警戒からか草色のローブを頭から被っていた。結果として保護色を纏うそれは、王都全体を見ている監視の目から逃れてることが出来ている。


 しかしその存在は向けていた視線を城から外し、口の中にある唾を吐き出した。

 酷く稚拙な茶番劇を見せられたような……こんな馬鹿なことをしている国を警戒する『司祭』に恨みすら抱いた。


「あら? お行儀の悪い」

「そうに御座いますね。育ちが伺えます」

「っ!」


 咄嗟に振り返ったそれは、その場に並び居る存在に初めて気づいた。

 質素なドレス姿の華奢な女性。メイド服姿の落ち着いた感じの女性。


 城を監視していたその存在は、メイドの存在は知っていた。だが女性の方は初めて見る。

 結い上げた髪に帽子を乗せ、顔を隠すようにヴェールが被されている。手足などは隠しているのが少し不思議ではあった。


「初めまして覗き魔さん。私はラインリア・フォン・ユニバンスと申します。この国で王妃を務めています」

「……王妃だと?」

「はい。恥ずかしながら城の方には住んでいませんが……」


 クスッと笑ったらしいヴェール越しの王妃は、ローブ姿の相手に冷ややかな視線を向けた。


「住んでいたら貴方の存在にもっと早く気づいていましたよ」

「……」


 サッと身構えるローブ姿の存在にメイド服姿の女性が前に出る。


「初めまして不届き者。王妃様専属のメイドを務めているスィーク・フォン・ユニバンスと申します。王国一の護衛と呼ばれています」


 軽くスカートを抓み一礼したメイドの手にはいつの間にかに短剣が握られていた。


「ゴミ掃除はわたくしの仕事では無いのですが……弟子の手を煩わせるのも悪いですしね」


 スッと姿を消したメイドにローブ姿の存在は目を瞠った。


「血反吐をまき散らし、誰の差し金かをついでに吐きなさい」


 背後から鋭い言葉と刃が襲いかかる。

 咄嗟に避けた存在は……ローブを裂かれてその姿を晒す。


 黒い髪、黒い肌などこの国では見たことのない人種の男性だった。


 と、ブンと太い腕を振られメイドに対して反撃を繰り出す。

 見切って寸前で回避したスィークだったが、違和感を感じて相手との距離を取った。


「……大変です王妃様」

「何かしら?」

「王妃様と同類です」


 スィークは相手の姿を改めて確認した。

 見える喉元には鱗が、そして手足にも同様の物が伺える。

 相手はその身にドラゴンの何かを宿していた。




(c) 甲斐八雲

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る