目が死んでない?
ユニバンス王城内
「これは」
1人調べ物をしていた女性はその記述に気づき手を止めた。
"彼"の部下である少年が借りて行った資料……どれもが10年前のあの事件に関係する者たちの物だった。
次いで調べれば、自身の妻である彼女が居た施設に関すること、携わっていた人物などの資料も貸し出されている。
「本当に愛していらっしゃるご様子で」
クスッと笑い女性は貸出に関する記入を成される台帳を畳んだ。
「……メイド長様っ!」
「お久しぶりにございます」
掃除の為に入って来たのであろうメイドたちが彼女の姿を見つけるや否や、全員がその顔色を蒼くさせ緊張で表情を固める。
メイド長……スィークは、彼女たちの前へとやって来ると、自然と整列したメイドたちの服装を確認し正していく。
「服装が乱れているから心が乱れるのです」
「「はいっ」」
「その乱れが掃除などに現れ」
ツッと伸ばした手で、指先で棚の一部に触れる。
ビクッと震えるメイドたちにスィークは自身の指先を見せた。
「このように汚れを残します」
「「申し訳ございません」」
蒼を通り越し白い顔色でメイドたちが深く頭を下げる。
十分に脅したと理解し、スィークは罰を与えるのは止めることとした。
「今後決して手を抜くことのないように」
「「はいっ」」
「なら自分たちの仕事を始めなさい」
言ってどうにか動き出したメイドたちの様子を見つめ、スィークはその場を後にした。
「なんか最近メイドさんたちの目が死んでない?」
いつも通り仕事をしつつメイドさんにお茶をお願いした。
持って来てくれたこの執務室付きのメイドさんが、釣れてから5日ぐらい経ったような淀んだ魚の目をしていたのが凄く気になった。
「あ~。確かにそうですね」
ケーキ禁止を解禁されたクレアが、狂ったようにケーキを食べながら僕の言葉に相槌を打って来る。
仕事をちゃんとしていれば文句は言わないけどさ、貴族の娘としては結構終わってる感じに見える。ちゃんと恋人探しはしているのだろうか?
「怖い人が居るそうです」
「怖い人?」
「はい」
仕事をしている手を止めてイネル君が語り出した。
「お城で仕事をするメイドさんたちは、一度ある場所に預けられて礼儀作法から何から全て教えられるそうなのですが……その時の教える人が最近お城に来ているらしいです」
「……メイド長か」
納得だ。つまり本当の意味でのメイド長だったのか、あの紫……怖い……メイド長様は。
「メイド長?」
「クレアは見て無いの? キャリミーを小突き回しているメイドさん」
「あ~。あのちょっとご年ぱっ」
「ごほんっ! クレア? 同じ女性なんだからもう少しこう年齢のことは……ね?」
僕の言葉を理解出来ない様子のクレアだが、あのスィークさんの年齢ネタはたぶん地雷だ。
踏んだら最後とんでもない地獄を見せられそうな気がする。
意味は分からなくても同じ女性として理解したらしいクレアは言い方を変えた。
「あの妙齢な人ですよね?」
「だね。たぶん」
「ふ~ん。厳しそうには見えるけど、怖そうには見えなかったけどな~」
パクッとケーキを頬張るクレアはあの人の怖さを知らない。
国王様も王妃様も手玉に取って、馬鹿兄貴は昔から始末したがっていた雰囲気だし、次期王妃なんて脇に抱えて連行していく姿を何度も見ている。それに僕の頭もグリグリしていたし。
はて? 普通に考えてそれだけ好き勝手やれるメイドって普通にダメじゃない?
王家に対しての忠誠と言うか敬意を微塵も感じない気がする。
何か裏ですっごい権力でも握っているのかな?
「で、何でアンタがメイドさんたちのことを知ってるのよ?」
「えっ? ケーキ買いに行く時とかいつも一緒だからよく話とかしてるよ?」
「へ~。ふ~ん。そうなんで」
思考を止めて視線を巡らせると、どこか拗ねた様子のクレアがケーキを頬張っている。
訳が分からない様子のイネル君が助けを求めるようにこっちを見ているが、他人の恋路に口出しするほど野暮じゃ無いので生温かな視線を返してやんわりと笑っておく。
良いな~。これぞ青春だな~。クレアはツンデレキャラを目指す気かな?
「くそうっ」
資料を投げ捨てハーフレンは苛立った様子で机の上に足を乗せた。
椅子の背もたれに背中を預け天井を見上げながら頭を掻く。
探している人物が自分のお膝元に現れてはメイドたちを恐怖のどん底に叩き落している。
発見の報告を聞いて急いで向かっても、相手はこの城の隠し通路をほぼ全て把握しているから難なく逃れてしまう。
捜索を開始してからずっとハーフレンは空振りを続ける日々だった。
「我が主。その足が邪魔です」
「……」
飲み物を運んで来た長身のメイドに注意され渋々足を降ろす。
綺麗に机の上が拭かれ飲み物が置かれた。
「スィークは見つからないのか?」
「はい。我が師であるあの人を見つけ出すのは至難のことかと」
「……ミシュを使うか?」
「どうでしょう? 猟犬なら追えるとは思いますが、あの子の力でも"捕らえる"のは難しいかと」
そう"捕らえる"となると本当に難しい。
「一層のこと暗殺出来れば楽なんだがな」
「……王妃様が悲しみお泣きになりますよ」
「分かっている。それもあって手が出せない相手だからこんなにも困っているんだ」
本当に厄介な相手を前にハーフレンはまた頭を掻いた。
(c) 甲斐八雲
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