見世物は終わりか?

 審問会は『虚偽の訴えであった』と言うことで片付けられた。

 仲介役である共和国は自国の判断の過ちを認め謝罪。王国はその謝罪を受け入れて今後二度とこのようなことが起きないようにと話が纏まった。つまりはそう言うことです。


 で、またやらかした僕はと言うと……




「重ね重ね本当に申し訳ございませんでしたっ!」


 入室すると同時にスライディング気味で全力土下座。

 もうこれしか無い訳です。あとは武士らしく腹を斬りますか? ごめん無理。

 ガツガツと床に額を叩きつけて深く深くお詫びする。

 ただ相手のリアクションが無いと不安になる訳で……恐る恐る顔を上げたら国王様の執務室の机は無人でした。斬新な嫌がらせか?


「おうアルグ? 見世物は終わりか?」

「ってそっちかよ!」


 親子3人がソファーに座りグラスを煽っている。

 ちょっと待て。僕の全力土下座をつまみに酒を飲んでいらっしゃるのですか? 暴れちゃうよ? もういい加減寝不足で逝っちゃいそうなんだから!


 2人掛けと2人掛けがテーブルを挟むようにして置かれていて、向き合う格好で酒を飲んでいる3人の元へと合流する。

 物凄い罰を受けるものだと思って覚悟していたんだけどね。


「まあやってしまった物は仕方ない。アルグスタよ」

「はい?」

「罰金は分割で納付せよ」

「……」


 向かいの席に座る国王様の言葉の後にその隣に座るお兄ちゃんが1枚の紙をこっちに寄こす。

 書かれていた金額は……中々笑えませんね。最低でも僕に5年はタダ働きしろと言ってるらしい。


「少々高くないですかね?」

「だいぶ値下げしてやったんだぞ? あの内務大臣の悔しむ顔を見れたからな」

「……分かりました。分割で宜しいですよね?」

「構わん」


 一括で払えなくは無いと思うんだけど……ノイエと喧嘩している状況である現在、家のお金をごっそりと使ってしまうのには抵抗がある訳です。

 泣きそうな気持ちに封をして受け取った書類は懐へとしまう。


 問題は多数だ。


 あの後……戦いでは無くて話し合いとなったお蔭で当事者のはずなのに追い出された僕は、ノイエと2人で母乳が出る人を探し回る羽目になった。ラーシェムさんが授乳を拒否したのだ。

 それ以上に育児を完全に放棄して最後には『捨てても殺しても良いわよ』とか言い出した。流石にノイエがアホ毛を立てて怒り出しそうになったので、代わって僕が……彼女の頬を打って黙らせた。


 あう……初めて女性に手を上げてしまった。最低過ぎる。


 でも頬を打たれて彼女は、なぜ打たれたのか分かっていない様子で……何かもういたたまれなくなって後のことは近衛の騎士たちにお願いした。

 彼女は他国に勝手に亡命した罪と偽証し僕を訴えた罪などで罰せられることが確定している。どれほどの罪になるのかは知らないが、少なくとも彼女が子育てをすることは無い。


 城下にまで出て母乳が出る人を見つけ授乳して貰ったら、物凄い勢いで飲むわ飲むわ……本当に空腹だったのだと知らされて増々嫌な気持ちになった。


「折角の酒の席で暗い顔をするな」

「しますって。罰金だし……それにあの幼子のことも不安ですし」


 飲め飲めと国王様が突き出して来るワイングラスを受け取りつつもため息が出る。


 ノイエはラーシェムさんの言葉や行為が信じられなかったようで凄いショックを受けていた。

 彼女が仕事を忘れていることを僕が思い出して、とりあえずドラゴン退治に向かって貰った。ただ抱いている幼子を手放さなかった都合あのまま行って貰ったんだけど大丈夫だったかな? まさか抱いたままでドラゴン退治とかしてないよね? あれ? ノイエなら出来そうな気がして来たぞ?


 持ったグラスを揺らして中身の液体が揺れる様子を眺める。


「ラーシェムさんはどうなるのかな?」

「……人は罪を犯さば罰せられるものだ。そのことに地位や男女の違いなど関係無い。人は皆平等に罪に対して罰せられるべきなのだ」

「そうっすか」


 国王様は酔ってる方が真面目らしい。今度から何かあったら酔わせよう。

 でもそうなるとあの幼子は身寄りのない存在になってしまう。きっと彼女の実家も……自分たちに迷惑を引き寄せた娘の子供など引き取らないだろう。仮に引き取ったとしてもその扱いは酷そうだ。


「もし許して貰えるのなら」

「それは出来んよアルグスタ」


 言い切る前に否定された。つまり説得の余地は無いらしい。

 あの子を僕らが引き取るのは……やはり問題があるよな。最悪、僕が子供を無理やり引き取ったとか言われそうだ。別に言われるくらいなら良いんだけどね。世間体が邪魔をするって奴だ。


「案ずるなアルグスタ。あの子は確りとした場所に預ける。幸せに育てると約束もしよう」


 力強く断言する国王様を見てようやく気付いた。彼の妻が、王妃様が何をしているのかをだ。


「王妃様が面倒を見るのなら安心出来そうですね」

「その棘のある物言いは何じゃ?」

「いえ……誰かは王妃様との約束を歪曲して、自分の都合の良いように作り替えた実績があるそうなので」


 苦笑する国王様。図星を突かれて苦しかろう。

 ただ2人の兄がこっちをきつい目で見て来た。


「アルグ。その話、誰に聞いた?」

「はい? いつだったかバルコニーで空を見ていたら、むら……スィークさんが現れて聞きましたね」

「そうか。あの化け物め……やっぱ動いてたか」


 渋い表情でワインを開ける馬鹿王子と静かに沈黙するお兄ちゃん。

 あの~最後の最後で話が見えないんですけど?




(c) 甲斐八雲

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