9歳児よりも劣る

「ふぇ~」

「凄いだろ?」

「うん」


 照明の術式が組み込まれている地下倉庫は、体育館ぐらいの広さがあった。

 ちゃんと綺麗に棚が設置され、色々なアイテムが一つ一つ置かれている。


 一緒に来ていたフレアさんは装飾品を見てから鉄の処女っぽい拷問道具へと足を向ける。

 ミシュは適当に武器を見てから装飾品っぽい物が置かれている方へ足を向ける。

 僕は……とりあえず適当に見る。


 ほらこんな美術館っぽい所で、可愛いお嫁さんを右腕に抱き付かせて一緒に居るのって、デートしてる感じがして悪く無い。

 今の僕ならこの空気だけで十分に酔える。


「えっと……アルカンドラスの壺っと。これか」

「何それ?」

「調査を命じられている壺だ。ほらお前たち掃除を始めるから出ろ」


 結構奥まで行ってたフレアさんとミシュが戻って来る。


「フレア」

「はい」

「まあ大丈夫だと思うが一応見張りを頼む」

「はい」

「あとの暇人共は俺と来い。この壺を試すぞ」


 引率する筋肉王子に従い、フレアさんと掃除をするメイドたちを残して、僕らは彼の執務室へと向かった。




「で、それ何なの?」

「過去の調査結果では、"若返りの壺"と呼ばれている」

「へ~」

「やる気の無い声を出すな」

「だって絶対に嘘くさいじゃん」


 近衛団長の執務室へ来た僕らは、途中書記係としてクレアを拉致して来た。

 仕事がたんまりとあるイネル君が泣きそうになっていたけど心を鬼にした。


 でも折角の楽し気な玩具がいきなりのうそ臭さだ。


「調べによるとだな……10年間寝かせて使用すると、使用者は10日の間だけ5歳若返るらしい」

「調べたのに『らしい』っておかしくない?」

「それを言うな。過去の調査がずさんだから再調査しているんだ」


 ずさんだったと認めたよ。


「何よりこの手の調査って専門の人がするべき仕事でしょう? 何で僕らなのさ」

「一応危険性が無い物だけが城の地下に置かれている。危ない物は学院の地下倉庫だ」

「で?」

「危なくないからそっちで調べろと……学院から再調査の協力を断られた」

「何よそれ?」

「あっちは術式の開発やら何やらで結構忙しいんだ。フレアがイライラしている時は、あの日か多忙な彼氏に会えないかの二択だと思え」


 その軽口の為にフレアさんを地下に残して来たの?

 妹が姉の『あの日』発言で顔を真っ赤にしてるよ?


「何より学生だから学業もあるしな。学院は人手不足なのもあってこの手の簡単な仕事は応じないんだよ」

「それでなぜ僕ら?」

「骨折で休養中と雨期で休業中のお前らが適任だろう?」

「お前の骨も折ってやろうか?」


 僕の気持ちを察してノイエがグッと胸の前で拳を握った。


「危ない夫婦だな。もう少し心穏やかに生きろ」

「あんたが言うな。それを」


 全く……まあ良いか。本当だったら楽しそうだし。


「とりあえずミシュで試そうか」

「そうだな」

「ちょっと待った~!」


 なぜ怒る?


 プンスカ怒ったミシュが壺を指さす。


「どうして私なんですか!」

「この中だと結構年上だから?」

「くわ~っ! 自分が若いからって自慢げにっ!」


 自慢はしてない。若いけど。


「私が5歳若返っても違いなんて分かりませんよ! って事実を言わすな~!」

「それもそうだね」

「認めるな~!」


 売れ残りが頭を抱えて蹲って泣きだした。

 現実っていつも厳しいのね。


「これって何回使えるの?」

「10年で1度らしい。今回20年寝かしたから、理論上2回だな」

「それも調べろってことなのね」


 ん~。やはり安全を確保するためにもミシュでトライが1番なんだけどな。


 コンコンッ


「失礼します。騎士見習いのルッテです。アルグスタ様は?」

「あ~いい所に来た」

「はい?」


 豊かな胸に押され抱いている書類が頭を垂れている。

 うむ。あれなら違いが分かるはずだ。


「ちょっとこの壺を……どうするの?」

「開けて覗き込めば良いらしい」

「ってことをしてくれるかな?」

「良いですけど……この書類の確認をお願いします」


 書類を受け取り僕らは壺の置かれた机から離れる。

 首を傾げながら壺の前に立った彼女は、不安げにこっちを見た。


「変なのとか入って無いですよね?」

「大丈夫」

「臭いのも嫌ですよ」

「平気」

「……」

「どうぞ」


 市民の出である彼女は僕らの言葉に逆らう気配を見せず、壺の蓋を開けて中を覗いた。


「えっと……鏡ですか? 中に私の顔が……あれ? 幼い? あれ?」


 その様子を見ていた僕らもビックリだ。

 壺を覗き込んでいたルッテが段々と身長が縮んで小さくなったのだ。


「あれ? えっ? あれれ?」


 確実に幼くなったルッテが僕らを見上げて戸惑う。

 着ていた上着もブカブカで、スカートなどは下着ごと床の上に落ちている。


「確認だ~」

「ちょっ! ミシュ先輩っ!」

「5歳若返ったルッテになら……あれ? 嘘? いやぁ~っ!」

「って、いやぁ~っ!」


 半狂乱になったミシュがルッテの上着を脱がして投げる。

 上着を奪われたルッテは半狂乱になって慌てて下を両手で隠した。


「……9歳にしてその胸とか、すごっ」

「……はうっ」


 僕の隣に居た14歳のクレアが自分の胸を押さえて蹲った。

 つまり彼女も現在の時点で9歳児のルッテに負けたらしい。


「服を返して下さ~い!」




(c) 甲斐八雲

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