女子高校生

@saekirisa16

第1話 思ひ出

素敵な思い出の話をしましょう。


久々に思い出したのです。あんなこともあったな、と懐かしく思います。

と言っても、まだ1年半程しか経ってませんが。


中学3年の私には当時仲の良かった男の子がいました。

彼とは趣味が合い、よく話していました。

ただ話すという行為がこんなにも楽しいと感じたのはこの時以来、まだ1度もありません。


ラインでもずっと会話が続いていました。おはようからはじまり、おやすみで終わる。毎日毎日。素敵な会話でした。


そのうち、より親密な関係に発展していきました。私の部屋に彼を呼んで話したり、彼の書いた小説を読ませてもらったり。


お互いに気を使わなくていいからと、だらっとした緩やかな空気が漂う私の部屋が大好きでした。今もあの頃となんら変わりのない部屋で生活していますが、彼のいない部屋はあまり素敵だと思えませんでした。


初夏の昼下がり。同じ部屋にいるのに会話交わさず、各々好きなことをしていました。適度に効いたクーラー。柔らかく差し込む西陽。動きやすいからと着てきた甚平姿の彼。大きくはだけていた胸元から、彼が心を許してくれているようで、嬉しかったのと同時にドキドキしました。


彼の顔が思い浮かんでから、最初に思い出した場面です。とても温かみのある思い出です。


その後、彼氏彼女のような関係になりました。


連絡を取りあい、夜中に会ったこともありました。家が隣同士なので、夜中の逢引も難しくありませんでした。


何時だったかは忘れてしまいましたが、私たち2人の親が寝静まった時間でした。


そもそも、逢引の発端は急に放たれた彼の一言でした。


「会いたくなっちゃった。」

「今、すごいハグしたい。」


と。なんて素敵な言葉だろうと思いました。ラインで送られてきたその文面に、頰が熱くなるのを感じました。家族が団欒しているリビングで、一人早まった鼓動を悟られないように必死でした。


私も気分が盛り上がってしまい、会いたいと返しました。そうして、私の両親が寝たのを見計らって、静かに玄関の扉を開けました。


最初、彼も私も既に外にいたのに、お互い眼鏡をしていなかったので出てきているのに気づきませんでした。ラインで連絡を取り合い、お互い既に外にいるのがわかったときは思わず笑ってしまいました。


彼は私の玄関まで歩いてくると、「会いたかった」と言いました。「私も」と返します。

ハグしてもいい?と聞くので、もちろんと言ってハグをしました。


夏の日の夜、心地の良い夏を感じる夜でした。


ハグを通して伝わる彼の鼓動と体温。彼に抱かれていた時間は、言葉では言い表せないほど幸せな満ち足りた時間でした。ハグをするとストレスの三分の一が解消されると、どこかで聞いたことがありました。それを思い出した私は、三分の一なんてもんじゃない。抱えているストレス全部が吹き飛ぶほど効果があるんじゃないかしら、とさえ思いました。


あまり言葉は交わしませんでした。


でも、彼が私の纏う匂いが好きだと言ったのを覚えています。自分ではどんな匂いかわからないのですが、ずっと嗅いでいられる臭いだそうです。


彼とハグしていた時間は20分ほどでした。夜中に家を抜けるという行為に少しの罪悪感と緊張感を持っていたので、離れたくないと言う彼にあと5分だけねと言いすぐに家に入りました。


今思えば、もっとずっと彼とハグしていればよかったなと思います。

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