第6話 新しい生活に慣れました



 無駄に美形な魔王陛下に見守られ、紫音は魔王城での生活を順調にスタートさせた。


 この城には様々な外見の恐ろしげな魔族も沢山暮らしている。


 無条件で魔族に好かれやすい体質も相まって、彼女を慕って集まってきてくれる魔族は多い。


 当初は怖がっていたのだが、彼らと接するうちにそんな見た目に惑わされてはいけなかったんだとちょっと反省した。


 救済の魔女に悲鳴を上げられてしゅんとしたり、大きな体を丸めて必死に無害アピールする姿は、彼女の心に訴えるものがあったのだ。


 勿論、普通の人達ではなかったけど、結局は力こそ正義を地でゆくただの脳筋集団だったというのを段々と理解してからは平気になった。


 魔王陛下を筆頭に、時々ヤンチャをして城を壊したりもするけれど、彼ら自身は決して血に飢えた危険な化け物だというわけではない。


 宰相や魔導師長に雷を落とされて、慌てて謝ったり修繕したりする姿を見るにつれ、苦手意識も薄らいでいった。


 そんな光景を毎日見ていれば慣れるもので、今では案外可愛いものだと思っている。




 魔族の頂点に立つ魔王陛下にしても無駄な殺生を嫌っている。


 今は魔王国の民を護るため、侵略戦争を仕掛けてきた人間族を追い払おうと戦っているに過ぎない。

 有史以来、こちらから攻め込んだ事はないんだけどねと苦笑しながら教えてくれた。


 そうした事情を少しずつ学んでいくにつれ、優しくて純粋でバカ可愛らしいこの種族を、悪意から守りたいと心から思うようになっていった。


 


 救済の魔女として召喚された彼女だが、魔王陛下が言っていたようにその役割は直接戦場に出て敵を倒すことではない。


 魔神の加護が魔族の戦士達に行き届くよう、祈りを捧げることが求められている。


 魂が異界渡りをした際に、彼女には膨大な闇属性の魔力が備わった。


 その魔力を使って魔族達が信仰する魔神の神殿で朝夕二回、戦士達の守護と戦の勝利を願って祈る。

 そうする事で魔神の加護が受けられるようになり、個々の闇属性が活性化し、戦力が増強されるのだ。


 人間族が手に入れた強力な聖魔法に対抗するためにも重要な、この儀式を行えるのは救済の魔女だけ……。


 異世界に来てからの紫音は、魔王城の敷地内にある荘厳な魔神の神殿に、自分の意思でもって魔女の務めを果たそうと日参していた。


 そんな彼女にはやがて、魔王陛下から贈られた可愛らしいお供が付き従う事になる。





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