第11話

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 グラウゼオの眼前に黒球が現れた。すぐさまその下の地面の砂が浮上。直線軌道で飛行し、一斉にグラウゼオの目へと向かう。

 クウガの目潰しは首だけの動きで避けられた。だが、タンッ! 一足飛びで近づいたアキナが、ぐっと左脚を上げてきて伸ばした。躍動感のあるミドルキックで、瞬時に膝から下に氷が纏わり付いた。

 グラウゼオは左手でアキナの脚を掴んだ。光の円が再びグラウゼオの額の前に生まれる。先ほどの光線を、ゼロ距離でアキナに食らわせる気である。

 空気を切る音がした。すると四本の刀剣が、次々とグラウゼオの左腕に刺さった。ゲルマン騎士団の三人から奪ったものをクウガが飛ばしていた。

 握力が一瞬緩む。アキナはすぐさま拘束を解いて地面に着地。すぐさま超至近距離から右膝を突き込んだ。

 グラウゼオの瞳が怪しく輝く。するとグラウゼオの全身からふうっと霧のような黒いものが滲み出て、すぐに体表に纏わり付いた。

 アキナは構わず膝を振り抜く。ただでさえ尖った膝に、鋭利な氷が出現。グラウゼオの胸に威力の上がった膝蹴りを見舞うが、黒霧の外表面より先には進まない。

 グラウゼオは衝撃で後退するも、何のダメージも行った様子はない。

 驚いた風にアキナは目を見開いた。続いてクウガが滑らかに接近。流麗な所作でアッパーを見舞うも、またしてもグラウゼオには傷一つ付かない。二人の神人の連続攻撃が事も無げに無害化された。

「俺を忘れてくれんなよ!」グラウゼオの後方に移っていた蓮は、勇ましく叫ぶとともに牛舌掌を背中めがけて突き込む。

 指の先端がわずかではあるが、グラウゼオの皮膚にめりこんだ。ほぼ同時、蓮の突きが入った箇所を起点に、黒霧がすうっと消滅した。

 次の瞬間、グラウゼオは翼をはばたかせて飛翔。身体を横に倒して円軌道の蹴りを放った。

 蓮はとっさに右上腕で上方にいなした。クウガとアキナは腕でガードするが、衝撃を殺しきれずに大きく後退していった。

(……っ、危ない。逸らして良かった。俺より丈夫な二人でああだもんな。俺なんかが食らったらどうなってたか。一瞬たりとも気を抜いちゃあ駄目だ。瞬殺される)

 蓮が冷や汗をかいていると、再びグラウゼオの全身を黒霧が覆った。

 アキナはすかさず前へ跳躍。真上へ掲げた右手を振り下げて、グラウゼオの後頭部にエルボーを仕掛ける。

 ピキ、パキ。アキナの肘に氷が生じた。だがまたしても命中寸前、黒霧の表面で静止する。

 アキナはほぼ密着状態で着地した。即刻、グラウゼオが右手を引いた。アキナの腹部に鋭利な爪による刺突が迫る。

 ぐんっとアキナの身体は不自然に後退。「ありがと、クウガ!」黒球に引かれつつ、アキナは早口で礼を言う。

「クウガ、加速を頼む!」ぴしりと言い放ち、蓮は駆け出した。すぐにぐんっと後方から圧力がかかる。転倒しそうになりながらも、グラウゼオの目を目掛けて突きを放った。

 グラウゼオは機敏な動きで頭を引いた。目潰しは空振りに終わるも、(想定内!)グラウゼオの脛に踵蹴りが決まる。蹴撃を手業てわざに追随させる、八卦掌の技術である。

 黒霧が消えた。クウガは即座に滑るようなステップで接近。鋭く左フックを放つ。グラウゼオは躱そうとするも、ジッ! 右脇を掠めた。

 続けて渾身の右アッパー。鮮やかな連撃だったが、グラウゼオは翼で空中を滑るように移動。五メートル弱、退くとすたりと着地した。

 体勢を整えたアキナがすうっと息を吸い込んだ。

「蓮くん、クウガ! よーく聞いて! さっきの攻防を見る限り、予想できることは三つだよ! こいつが身につけてる霧は私とクウガの攻撃を無効化しちゃうことと、どーゆーわけか蓮くんの八卦掌だけは通ること、んでもってそうなったら霧はちょっとま消えたままになってるってこと!

 蓮くんにはぶっちゃけ戦ってほしくないんだけど、うだうだ言ってられる状況じゃあない! 使える駒を出し惜しみしてたら三人とも死にかねないからね! 蓮くんが超ド級のハイパワー攻撃で倒す、もしくは蓮くんの攻撃で霧が消えてる間に私たちが倒す! 勝利条件はその二つだよ!」

 凛とした声音があたりに響いた。

「ふん、お前に教えられずともわかっているよ」クウガは少し不服そうに呟いた。

「ありがとう、アキナ。一つ目は難しそうだから、俺が霧を消してる間にアキナたちが畳みかけるで行きたいかな」

 意を決した蓮は静かに答え、二人と目配せを交わした。

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