恋人ごっこ

勝利だギューちゃん

第1話

今はもう秋、誰もいない海


そういうフレーズの歌がある。

それに、感化されたわけではないが、今僕は海にいる。


文字通り、秋・・・

誰もいない海。

僕ひとり。


そう、ひとりになりたくて、海へ来た。


僕が住んでいるのは内陸県で、海がない。

しかし、免許は持っていない。

旅行というのは過程も大事。


僕は旅情を楽しみたくて、列車に揺られてここに来た。


本当に誰もいない。

海の音と、浜風が心地よい。


海を眺めていると、何もかもが、洗い流されていく気がする。

まさしく、生命の源だ。


でも・・・


同じ考えをする人間はいるもので・・・


「あっ、お兄ちゃん。奇遇だね」

「葵?どうしてここに」

「お兄ちゃんこそ、どうして?」


こんな身近な人物がいたよ。


「いや、ひとりになりたくてな・・・ここに来た」

「わたしも、さすが兄妹、気が合うね」

「合いすぎだ」


妹と砂浜に座る。


「葵はどうした?友達と旅行だろ?」

「あれは嘘。そうしないと、パパもママも、行かせてくれないから」

「年頃だからな。ばれたらどうするんだ?」

「友達には、口裏わせをしてもらってる。お兄ちゃんは?」

「俺は男だからな・・・簡単に許してくれたよ」

「いいな。男の子は・・・」

いや、僕は女の子が、羨ましい。


「お兄ちゃん、彼女いる?」

「喧嘩売ってんのか?」

「冗談よ」

冗談とは思えない。


「じゃあ、ここにいる間だけ、恋人になろうか?」

「断る」

「照れない。照れない。こんな可愛い女の子が彼女だなんて、贅沢だよ」

自分でいうか・・・


でも、兄妹で恋人ごっこも悪くないか・・・


「わかった。恋人になろう」

「うん。」


葵は手をからませてくる。


「恋人つなぎだよ。お兄ちゃん、初めてでしょ?」

「お前はどうなんだ・・・ていうか、恋人なんだから、お兄ちゃんはないだろ?」

「そうだね。・・・くん、よろしくね」

「ああ、葵、よろしく」


夕陽が沈み始めている。

夕陽には、どう見えているのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋人ごっこ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る