御休息御庭ノ者隠密活動秘録帖 ~絡繰大江戸~

九頭七尾(くずしちお)

第1話 絡繰大江戸

 武蔵国に広がる絡繰の都――江戸。

 絡繰からくりとはすなわち、人形や道具などを、歯車や撥条ぜんまい、あるいは、糸や金属線などを用いて自動的に操り動かす仕掛けのことである。

 絡繰技師と呼ばれる江戸の技術者たちは、その鋭敏な創造性と深い思考を持って、単純な仕組みのものから複雑精緻な機構を持つものまで、様々な絡繰を生み出していた。

 人足要らずの絡繰駕籠、河川を独りでに進む絡繰船、人や物を楽々上階へ運び上げる絡繰階段、手も触れず開閉する絡繰扉、油が要らぬ絡繰灯、涼風を起こす絡繰団扇、さらには、絡繰暖炉、絡繰風呂、掃除絡繰、洗濯絡繰、絡繰玩具、絡繰警報……。

 江戸の街は絡繰で溢れ、絡繰は江戸に暮らす人々にとって欠かせないものとなっていた。

 そんな江戸は、いつしかこんな雅言がげんで言い表されるようになる。

 絡繰大江戸、と。

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