転生したら生首だけだったので、魔物の腕とか沢山付けて最強になってみる
矢倉坂晴翔
第1話 最悪の目覚め
顔にしたたる水滴によって、俺の意識は眠りから醒めた。
一定のリズムを刻むようにポツン、ポツン、と脳天を叩く水滴を感じつつ、欠伸を噛み殺しながら目を開ける。
目の前を覆うように生える草と、青空が目に入ってきた。
考えるまでもなく、外だった。
「外かあ。……え、外?」
何で外にいるんだ、俺。
外で寝てしまったのだろうか。
慌てて眠りに着く前の事を思い出そうとする。
が、しかし、俺はすぐにそれが不可能であると悟った。
直近の記憶が全くないのだ。
ある程度遡れば思い出すことはできる。
有名RPGシリーズの新作をクリアしたのは一週間前。通っている高校で文化祭があったのは二週間ほど前だっただろうか。
このように、過去のことは思い出せる。
自分に関する情報——俺の名前が西極(さいごく)国光(くにみつ)であるということや、生年月日や住所なども当然分かる。
そんな中で、最近の記憶だけが欠落しているのであった。
目が覚めたら外にいて、最近の記憶がない。
……二日酔い?
いや、流石にそれはない。
酒に酔って記憶を飛ばしたり、外で寝てしまったりする人間は沢山いるだろう。
国民的アイドルだって酒に酔って全裸で公園を転がったりするのだ。
しかし俺は未成年で、そもそも酒なんて飲んだことはない。
とすると、なんだ?
「……わかんねえ」
とにかく家に帰ろう。
親だって心配しているはずだ。捜索願だって出されているかもしれない。
全く記憶がないのでどう言い訳すればいいのかわからないが、まあ何とかするしかないだろう。
そう思って立ち上がろうとし、違和感に気づく。
……身体が動かない。
手も、脚も、動かそうと思っているのに微動だにしないのだ。
目は動く。口も動く。しかし首から下が一切動かない。
必死に身体を動かそうともがきながら、俺はもう一つの違和感に気づいた。
「なんか……低くね?」
ずっとうつ伏せで顔だけ持ち上げている状態だと思っていたのだが、それにしてはまっすぐ前を見れているし、地面も近すぎる。
距離的には、首から下が地中に埋まっているようでもあった。
え? 埋められた?
いつのまにかヤバい組織に狙われていたのだろうか。
心当たりは一切ないのだが、埋められているとすれば首から下を一切動かせないのも説明がつく。
理由はともかく、早く脱出するべきだろう。
誰か通りかからないだろうかと考えたのと同時に、遠くから足音が近づいてきた。
幸運にも、早速人と巡り会うことができたらしい。
すぐに大声で叫ぶ。
「あの、そこの人!助けてくれませんか!」
謎の足音は俺の声に反応してくれたようで、歩調を変えて此方へと向かって来た。
ガサガサと草を掻き分ける音が近くから聞こえ、その音が一際大きくなった時、目の前の草が押しのけられた。
「…………」
赤い瞳に、綺麗な水色の髪。
現れた少女は、草の間からじっとこちらを見ていた。
顔立ち的に日本人ではないだろう。
「は、はろー……まいねーむいず……」
「……どこの言葉ですか?」
普通に日本語で返された。
ハーフだったのだろうか。頬が熱くなるのを感じながら、助けて欲しいと訴えかける。
「あー、ちょっと助けてくれないか? なんか埋められてるみたいで、掘り起こして欲しいんだ」
「掘り起こす?」
少女は不思議そうに首を傾けて、それから俺の顔をじっくりと観察した。
少女の目が、一瞬淡く光を放ったように見えたのだが、錯覚だろうか。
「うーん、魔法生物みたいですね……でも、こんなパターン、デンドログラムでは見たことないような……」
日常生活ではあまり使わないであろう単語を発する少女。魔法……と言っていたが、なんの話をしているんだ?
「あ、あのー?」
「……決めました、うちに連れて帰ります!」
「えっ」
そう言って、少女は俺の顔を掴み、
文字通り、その細い腕によって持ち上げられたのだ。
「……え、何? どうなってんの!?」
舗装されていない道に出来た水溜りに反射して、赤い瞳の少女と、その腕に抱えられたモノが映る。
——あり得ない。
そう決め付けようとする俺の意識を、目の前の事実が否定する。
そこに映っていたのは、少女の腕に抱きかかえられる見知らぬ生首であった。
「はああああぁぁぁ!?」
「わっ、急に叫ばないでくださいっ」
俺が叫ぶのに合わせて、水溜りに映る生首も口を大きく開く。
映っている顔は俺のものではない。自分で言うのも悲しいが、正直言って俺の顔はそこまで整っていないのだ。
しかし、俺の顔が動くのに合わせて水溜りの顔も同時に動く。
これは俺だ。そう認めるしかない。
……確かに昔からイケメンになりたいとは思っていたが、イケメンになった喜びより、胴体を失った驚きの方が当然デカい。
「何なんだよ、これ……」
何もかもが分からない現状だが、とにかく、俺が生首になったということは紛れも無い事実のようであった。
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