俺の全部で君と恋したい。
浅野 蛍
第一章
第0話 君に恋をした。
ゴールデンウィーク明けの席替え。
入学してから初めての席替えのため、浮足立つ者もいれば不安を抱える者もいる。
俺はどちらかと言えば前者だった。
名南高校に入学してから約二週間、ようやくひとり友達ができ、そいつと近くの席になれたら。
そんな密かな期待を寄せていたが、実際にはその友達と遠く離れてしまった。
窓際の前から二番目。
俺の感想としては、何とも言えない席だった。
若干の不満を抱えながらも、机と椅子を移動させ、席を移動する。
そして、椅子に座りなんとなく窓から校庭を眺めていると、声をかけられた。
「しばらくの間、よろしくね」
俺は声をかけてきた生徒の方に目をやる。
そしてその生徒の顔を見て、俺は固まってしまった。
声からして女子なのはわかっていた。
少し可愛ければいいな、なんて邪な思いもあった。
しかし、その声の持ち主は予想以上の美少女で。
そんな彼女が隣の席になったようだ。
綺麗な艶やかな黒髪に、綺麗な瞳に整った顔立ち。
明らかに育ちが良さそうな美少女だった。
「お、おう。よろしく……」
俺は彼女の美貌に充てられて、少し言葉をつかえながらも返答する。
入学してから一か月。
こんな美少女ならクラス内の注目を集めるだろうに。
(……何故、この美少女は目立っていないのだろうか?)
そんな当然の疑問を抱える。
確かに、目立つような可愛さではないし、華やかでもない。
クラスにはこの一ヶ月間でカーストトップに君臨した顔立ちの良い女子もいるが、それでも注目されても可笑しくないくらいには美少女といえる顔立ちだった。
今思えば、こうして彼女に少なからず興味を持ったところから俺の恋は無自覚ながら始まっていたのだろう。
俺はいつからか隣に座る彼女を盗み見るようになっていった。
最初は先ほどの疑問から。
けれど、いつからかそんなことはどうでも良くなっていった。
結局彼女と話したのは必要最低限の言葉だけ。
けれど、隣の席から見えた彼女の表情は俺の心を動かすには十分過ぎた。
友達との談笑で見せる笑顔。
授業中の真剣な表情。
時折見せる、睡魔に負けそうになっている顔。
クラスメイト達の関わり合いの中での、人となり。
そんな、何気ない仕草や表情に俺の視線は段々と好意的なものへと変わっていた。
恋は突然、なんて言うけれど。
この恋は突然なんかじゃなくて、日々の積み重ねの末に生まれたものだろう。
そして、この恋に俺自身が一番驚いてた。
中学時代、裏切りにあった俺が人を好きになるとは。
そんな思い浮かべて、自嘲的な笑みを浮かべる。
この恋は叶うことは無いだろうが、せめて今だけは。
――この先にやってくる事をまだ何も知らずに、俺は無責任に彼女へ想いを寄せていた。
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