第52話 魔女とホテルとメガネ君(4)

確かウィンクル・ポッド中佐は第五の寮に住んでいるはずだ。

ジョイが一緒に暮らしていると言っていた。


第五の基地の前まで来た。

門のあたりに人の気配はない。


「門番もいないのか?ここは!」

さすがは第五、常識がまったく通用しない。



「ポッド中佐はいますか?」と訪ねるのか?なんか抵抗ある。

また「ジョイセントに会いに来ました」っていうのも変だよな。


門の前で思案していると大声がした。


「おー。メガネ君じゃないか!」

「バーレント大佐!?」

「一軍を辞めてウチに来る気になったか!よしよし!」と言いながら肩をたたいてくる。


「ち、違います!」

「なんだ違うのかよ。ジョイに会いに来たのか?まぁ入れよ!」と引きずり込まれた。

「ローランドの古臭い戦法じゃさー、面白いことできねぇだろがー?ウチに来いよー。」


なんだかんだとスカウトしてくる。なぜだ?

食堂まで引きずられる。


そこに彼女がいた。

白いひらひらしたレースのブラジャーに。

白いひらひらしたレースのパンツ姿で。

ケーキを食べながら俺に視線を向けている。


「うわぁ!!!」思わずこっちが叫んでしまった。


「ウチに来ると見たい放題だぞぉー、メガネ君!」大佐が楽しそうに言う。


あのカッコはなんだーーー!?

なぜ他の男たちはスルーしてるんだ!?いやできるんだ!?

鼻血が出そうだ。

第五の男どもは場数を踏んでいるのか?

あなどれない!


「し、失礼しますっ!!」

俺は焦って食堂を出た。

第五で落ち着いて話なんてできない。




「エリック!」

建物を出ようとした時、後ろから彼女の声がした。

振り向くと、さっきの格好のままだ。

目のやり場に困るじゃないか。


態度は悪く見えるかもしれないが、とても正面は見れない。

何気に横を向きながら謝罪することにした。


「すまなかった。君に、その、迷惑を…かけて。」



***



エリックが目を伏せて、申し訳なさそうに言う。

なんだ気にしてたのか。


「魔女に謝りに来たの、エリックが初めてよ。」


「え?」


「何でもない。何もしてないから、謝らなくて大丈夫よ。」


「え!?」


「ワタシ、いつもこんなカッコなの。暑いから。昨日の夜も、あなたに脱がされたわけじゃないわ。」

自分で脱いだんだから、嘘はついてない。


「そ、そうなのか!?」


心底ホッとした顔。傷つくなぁ。

「魔女となくて良かった?」


「え?」

エリックは黙りこんでしまった。


いじめすぎた。


「じゃあねー。」

食堂に戻りたくなくて、自分の部屋に帰った。


ワタシとって本当のこと知ったら、あの人卒倒するだろうな。

悪いのはワタシなのに、ローランドに辞表を出しかねない。


真面目な人。謝らなくてもワタシは怒ったりしないのに。

長い人生の中で、通り過ぎていく人にすぎない。


また、たまらなく寂しくなった。


エリックのせいだ。

エリックが謝るから、悪いの。


***


いつもヘラヘラ笑っている彼女が悲しそうに見えた。

俺、何したんだ?

酔った勢いで、相当マズいことしたのか?


モヤモヤする。


とりあえず謝罪はした。

何もしてない、と彼女は言ったけど。

じゃぁなんであんな顔をするんだ?


やっぱり俺が何かしたのだろうか?



いつもみたいにニコニコしない。

御前試合の最中でさえ、ヘラヘラ笑っていたのに。


「何もなかった」ことに、したいのか?

それは俺も……同じだけど。


男の俺が夜のこと追及するのも違うような気がした。


俺はどうすれば良いのだろう?

「はぁー。」

ため息をつきながら士官寮に帰った。


エニセイア南方司令官にバレたら、俺、殺されるかも?


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