第47話 ファイヤーマスターの古代魔術

「さぁ!次行くよー!」

女はノってきたみたいでご機嫌だ。

―――火矢散!

いくつもの火が矢の形になって、こっちに降り注ぐ。


―――竜巻!

竜巻で火矢を吸い込み、女に投げ返した。




***




風にあおられた火が、燃え上がりながらウィンクルさんを襲う。



「ウィンクルさん!燃えちゃう!?」

「燃えてる!燃えてる!いいぞぉー!!」


「ちょっとイチさん!?よくないでしょ!」

「黙って見とけよ。本気じゃねーって。」


大やけどを負うのでは?という私の心配は必要なかった。

ウィンクルさんは炎を身にまとい悠然と立っている。

さすがファイヤーマスターだ。


「おー。ウィンクルに火をつけたぞ。メガネ君気に入ったー。うちに来ねぇかな?」

「彼、超がつく真面目ですから、第五に馴染めるかなー?」



イチとジョイさんは相変わらず、のんきな会話をしている。

この人たちといるとホント常識が崩れちゃうわ。


でも第五の人たちと仲良くなってからというもの、貴重な体験も多い。

こんな近くでハイレベルな魔法を見れるなんて、勉強になる。



***



女がニコニコしていることに変わりはない。


しかし目が違う。

目が笑ってない。


目の中に戦士がいる。ザワザワと殺気に肌をなでられた。

この女!さっきまでとは違う!



「久しぶりに燃えてきたわ!やるぞぉ!」

―――鋼火よ来たまえ。いまここに……


女が呪文の詠唱を始めながら、剣に巨大な炎をまとわせ始めた。


今までの初歩的な呪文じゃない!?

古代魔術の「帯剣魔法」だ!

剣に魔法を込める「帯剣魔法」は魔法の発動時間が長くて強力だ。


この女ヤバいぃっ!?

何考えてるんだ?いや考えてないのか!?

こんな狭い闘技場で、こんなデカイ呪文使うか!?



図書館で調べ物をしている姿はよく見かけていた。

こんな難易度の高い呪文をあっさり使うなんて。


なんて無茶な女だ。さすがは第五。

陛下や観客に炎が当たるぞ!?



***



「大佐ぁ、ウィンクルさん……けっこう火ついてますけど。大丈夫ですかね?」

「俺、知らん。あー、ティアのやつシールドもう張ってやがる。準備いいな。

国王が死ななきゃ大丈夫だろ?」

「え?え?どういうこと!?イチさん!」

「じっとしとけ。火傷すっぞ。」


えエーーー!?



―――……鋼の力を高めたまえ。鋼炎斬!!!


ウィンクルさんが巨大な炎と共に、エリックさんに切り込んだ。

私には見えないスピード!!


―――豪風渦壁!!

ゴオオォォォーーーー!!


猛烈な風が吹いた。

青く光る風のシールドがエリックさんの前で渦巻いている。

風の渦がウィンクルさんの炎を巻き取ってかろうじて止めている。

炎は四方に飛び散り、熱波が飛んでくる。


熱いっ!


「熱!あちちち!!」

院長がたまらず叫んだ。


「イチぃ!!何とかせぃ!」


「世話がやけるジジィだなー。ついでに火葬にしてもらえよ。」

「ひどいヤツじゃ!あちち!」


院長が怒るのも無理はない。


―――幕闇

イチが座ったままシールドらしきものを張る。

目の前に薄い闇のような幕が広がると熱波がまったく来ない。


スゴい。イチってけっこう器用に魔法を使う。いつもふざけた人なのに。


でもこのままじゃ。観客がヤバいのでは?


ウィンクルさんは風のシールドに「ギリっっ!」と切り込もうとしている。

顔が笑っている。楽しそうだ。

逆に怖い!!



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