第26話 獣の悪魔

あれは何?自然の獣じゃない。


四本足の黒獅子のようでもあるけれど、形が定まっていない。

黒い炎のようだ。

身にまとっている黒い渦で第五の騎士たちを切り刻んでいく。


イチも切られると思った時、彼は地面に伏せて難を逃れた。

しかし圧倒的な力の獣になす術はなかった。

魔力が尽きているんだ。


「グルオオォォォーーーーーーン!!」

黒い獣は聞いた事がない雄叫びをあげた。


鼓膜がビリビリ震えるのが分かるほどの大きな鳴き声。

見たこともない獣。

あれは悪魔?


「ぐわあぁーー!」

知っている騎士たちの最期の声が響いた。



何十人もいた第五の急襲隊は半分以下になった。

血の臭いがあたりに満ちる。


私は甘かった。なんでこんなところに来てしまったのか。


「武器を捨て、投降しろ。情報持ってる奴は、殺しはしない。」

敵将は50は超えているであろう男だった。

浅黒い肌に黒い髭、ノーシアでは見ない風貌の外国人だ。


目つきが他の兵士と違う。

立派な鎧と兜を身につけている。でも威厳は感じない。

下品な威圧感を身にまとっている。


あの人も悪魔使いなの?


イチを含む20人ほどが真ん中に集められ、剣を捨て両手を挙げている。

その間も獣の悪魔はウロウロと彼らの周りを警戒して歩いた。


敵将は椅子に座って、それを愉快そうに眺めている。

松明の明かりは敵将のために灯されたのか。

彼は兵士たちの死体がゴロゴロしていることも気にせず、酒を飲み始めた。


全員が縛り上げられると悪魔は消えた。

夜の闇に同化するように。



***


しくじったなぁ。

松明が灯された時点で、敵将が帰って来ることは予想していた。

しかし思ったより早かった。

さっさとルシャをかっさらって逃げるつもりだったのによ。




「ゼート将軍!こいつ第五のイチだ!

間違いねぇ、この顔の傷つけられた時に、悪魔を操ってた奴だ。

忘れねぇ。俺しか生きて帰れなかったんだ!」


額から頬に大きな傷跡がある兵士が騒ぎ出しやがった。


「魔力を感じないぞ?ずいぶん軽装だな。

雑兵じゃねぇのか?」

ゼートが怪しんでいる。


「顔は間違いありません。珍しい剣を使うんだ。」


「こいつか?」

そう言って奴は俺の刀を珍しそうに眺めた。

勝手に汚い手で触るなよな。


「俺もその剣に見覚えがあるぞ!地獄のふたを開けるんだ。小隊が飲まれたのを見た!」

他の兵士も騒ぎ出した。


俺って結構な有名人だな。

あー、やっぱり弱かろうが、一人でも捕り逃したらだめだな。

こういう時に余計なことを言いやがる。

鬱陶しい。


「お前、本当に第五のイチなのか?」

俺を見る目は闇にまみれている。

殺してる数が俺とはケタ違いの悪魔使いだ。


こいつがゼートか。


顔を間近で見るのは初めてだった。

まとわりついている邪気も半端ない。

大きな悪魔を使役してたし、魔力のスタミナありそうだな。

どうすっかなぁ。


「答えないのか?他の捕虜に聞いてみるか。」

そう言ってゆっくりと剣を抜いた。


ヒュンッッ!!

剣が風を切る音。

隣の騎士の首が落ちた。


ドサッ。

首のない騎士の体は後ろに倒れた。

血が噴き出す。


ゼートは全く表情を変えないまま聞いた。

「こいつが本当にイチなのか?」

血がベッタリついた剣を、そのまた隣の騎士の首に当てる。


この男、剣も使える。

「うるさいおっさんだな。あーそーだよ。俺が第五のイチだ。」


「急にあっさり認めたな。本物かどうか怪しい。なぜ魔力がない?」

「そういう日もあるだろ?」

「ふざけんな!」

ガツッ!

足で顔を蹴りつけてきた。


「イテーな。捕虜をちゃんとあつかえよ。」

口の中に血の味が広がる。


「本物かどうか怪しいが、顔が似てるのは間違いないみたいだな。

なら使いようはある。とりあえず本国に連れて帰るか。」



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