第25話 急襲 ーイチの剣技ー

重たい箱を背負わされて、どれくらい歩かされただろう?

もう歩けない。足の感覚もない。体中が痛い。


捕虜になった他の騎士たちも疲労の色を隠せない。

私を見捨てて逃げれば、こんな目にあわずにすんだ。

なのに誰も私をにらんだりしない。


イチの命令を受けていたのかな?

私を守り抜くように。


いくら命令でも、自分の命を捨てるだろうか?

これが軍人というものなの?


私のためではなく、イチのために命を捨てる覚悟。

だとすればイチは指揮官として尊敬されているのかもしれない。


あんなメチャクチャな人なのに。


荷物運びの用事は済んだ。

水も食事も与えられない。

あとは殺される。



私は、ようやく、死ねるのかもしれない。



***



日が落ちると松明が灯された。


おかしい。


第五のキャンプでは敵に位置を知られないように、明かりは必要最低限に抑えられていたのに。

だれか来るの?



松明が灯されるとすぐ、それは始まった。


ヒュン!!ヒュン!!ヒュン!!

矢が飛んで来る音。


「グわぁぁ!!」

倒れたのは敵兵だった。


「急襲だーー!!」


剣を振り上げ飛び込んできた兵たちは、ノーシアの鎧を身に着けていた。

中でも強暴な勢いで駆け抜けてくる者がいる。


イチだ。


長い刀を右手に持っている。

鎧はつけていない。


あんな軽装で!?こんなところに来るなんて無茶な!


切りかかってきた敵の剣を右の刀で払い、左手でその兵の顔面をつかんだ。

激烈な勢いで地面に叩きつける。

ぐしゃり。

音は聞こえなかったけど、その敵兵はもう動かない。

素手で殺した。片手で。


周りの敵兵がひるむのが分かった。

恐怖は伝染する。


イチが円を描くように体を動かすと、敵兵がバタバタと倒れた。



私の方へ向かってくる。

後ろからイチに切りかかった敵兵の首が、跳んだ。

あんな大きな体なのに動きが速い。


よく見えない。

松明の明かりはある。

でもイチの動きが速すぎて分からない。


ともかくこの人は強いようだ。

魔法だけではないのだろう。

剣技に自信があるから、軽装なのかもしれない。



次々に斬っていく。確実に斬っていく。敵兵が確実に死んでいく。

敵兵の首や腕がイチの一刀で跳んでいく。

容赦なんてない。当たり前だ。


ここは戦場なんだから。


目を離すことができなかった。

私はただ、イチが人間を殺していく様を見ていた。

イチの足を止める敵兵は誰もいないように思えた。



急にイチが視線を横に向け、地面に伏せた。

その時、それは現れた。


黒い渦をまとった獣が第五の隊員達をつき飛ばした。

切り裂きながら。

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