第23話 捕らわれたルシャ

キャンプを移動させることになった。

補給隊の位置を敵に知られている可能性が出てきたから。


けっこうな距離を歩いたと思う。

道なき道を行くのは、それだけで重労働だ。



新たなキャンプを作るのに、他の隊員さんたちは忙しい。

私はともかく邪魔をしないように、おとなしくしているしかなかった。


みんな移動で疲れている。でも休んでいる暇などない。

激しい雨が容赦なく降ってきた。それでも誰一人、手を止めない。

補給隊が機能しないと、最前線のイチたちが動けなくなる。



ここも戦場なんだ。


なぜ王都は平和なのだろう?

私は彼らがこんな辛い仕事をしているなんて知らなかった。



***


ジョイさんがイチを迎えに行った。

最前線から来た伝令の報告では魔力の消費が激しいらしい。

魔力の補給は想定より頻繁になりそうだった。



夜になった。

何かの動物の鳴き声がたまにする。


ウトウトし始めた時、大声が響いた。


「敵襲ーーーーーーーっつ!!」


えっ!?


テントから飛び出すと、箱に火矢が刺さっているが見えた。

ヒュン!!ヒュン!!と矢が風を切る音が聞こえる。


「ギャァァーー!!」

「ワァァーーー!」

あちこちで叫び声が聞こえる。


どうなってるの!?


呆然と立ち尽くしていた私のもとへ、数人が猛烈な勢いでやってきた。

暗くて敵か味方かも分からない。


怖い!


いきなり、私は肩に担がれた。

「アジカさん!?」

「声を出すな。逃げるぞ。」低く短く言う。

アジカさんは大柄な方ではないのに、私を軽々と担いで全力で走る。


私たちは真っ暗なジャングルに飛び込んだ。


***


前を走っていた騎士が「グワッ。」と声をあげ倒れた。



「囲まれてる。何も喋るな。」

アジカさんの声は聞いたことがないくらいかたい。

私を地面に下ろした。

辺りは真っ暗で、私には敵がどこにいるかさえ分からない。


突然、アジカさんは腰の剣を、鞘ごと地面に投げ捨てた。


「ま、まま待ってくれダンナぁぁ!

ワシらしがない補給兵なんだよ。

けけ、け、剣も渡しただろ!?

命ばかりは、た、た、助けてくれよ!


うまい飯も作れるし、コイツは薬も知ってる!」


さっきの低い声とは全く違う。

アジカさんはいかにも情けない男を演じて、ガタガタと震えてみせている。



他の生き残りの騎士達も合わせる。

「お、俺ら給金も安いヒラなんだ!頼むよダンナぁ!」

そう言ってみんな剣を鞘ごと投げ渡した。


「騎士が剣を捨てるかー?」

「ハハハ!情けねぇやつらだな!」


「薬はとりあえず使えるかもな。縛り上げろ!」

指揮役と思われる敵兵がそう言った。



「嬢ちゃん。女とばれないようにしろ。絶対に声を出すな。耳が悪いフリをしとけ。女とばれたら、どんなひどい目にあわされるか分からない。」

アジカさんが私の耳元で囁いた。


怖い。


私たちはキャンプに連れ戻された。

日が昇り明るくなると凄惨な光景があらわになってきた。



昨日まで一緒にご飯を食べていた隊員さん達が死んでいる。

たくさんの死体が仰向け、うつ伏せになっている。

目を開けたままの人もいた。

あちこちに血溜まりが広がっている。


涙より、吐き気を抑えるのに必死だった。

人はこんな風に死ぬのか。

だれも動かない。怖くてたまらない。


もう死んだほうが楽だ。

そんな考えさえも浮かぶ。



逃げられた隊員はどれくらいいるのだろう?

この場を逃れても、食料もなしに味方キャンプに辿り着けるのだろうか?

逃げても地獄かもしれない。



「食料が結構あるぜ。」

「不足してたはずだ。ちょうどいい、こいつらに運ばせて持って帰る。」


手を縛られているのに、箱を背中にくくりつけられた。

「こんなちっこいガキがいるぜ!」

「ハハハハハーーー!!頑張るじゃねぇか!!」

「怖くて愚痴も言えねぇのか!」

敵兵は楽しそうだ。


「ダンナぁ。そいつは生まれつきしゃべれない。薬品担当の見習いでさぁ。」

アジカさんがごまかしてくれる。


運ばないと殺される。

でも、もう死んでもいいかもしれない。


「しゃべれないガキまで使ってるのか?」

「第五は人員不足かよ?」

「ハハハハハ!!評判とは違うな!」


努力はした。

もう許されるかな?

そんなことを私はぼんやり考えていた。

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