第3話 史上最悪な騎士のディープなキス(2)

怖い。激しく深く強引に舌を入れられて息ができない。男は私の眼鏡が邪魔なのか、ポイっとどこかへ放り投げてしまった。さらに顔と体を密着させて深く深く奪ってくる。強いお酒とタバコのニオイ。クラクラする。男の興奮が高まってくるのが怖すぎて涙がにじんでくる。


息が!できないっ!


男がようやく唇をずらした時に「はぁ!ん!」と声が出た。何とか呼吸しようと思わず漏れた声を聞いて、男がクスっと笑った。


「オマエ、朝からイイ声出すなぁ…。」


低い声がすぐ耳元で楽しそうにささやく。ゾクっとする。この人はこの状況を楽しんでいる。怖い。体が凍ったように動かなくなる。男の唇がさらに奪ってくる。私の唇から首すじを下へたどり始めると体の芯がザワリとする。怖い。怖い。怖い。


_____ほんの一瞬、暗い光景が見えたような気がした。私を人として扱わない者たちの記憶。_____


体が小刻みに震える。怖い。呼吸が浅くなる。怖い。自分の中にどす黒い感覚が広がっていく。落ち着け。逃げないと。声を出さないと!



***



突然、男が少し、体を離した。

私に顔を近づけ覗き込んでくる。


「オマエ?震えてんのか?」

まだまぶしそうな顔をして、いぶかしんでいる。


「あれ?オマエ?昨日の女と……違う……のか?あれ?ここ……俺の部屋か?」と目を細めて周りを見渡す。


その時、開けっ放しのドアから一人の若い男がヒョッコリと顔を出した。


「あー!イチ大佐ぁ〜。彼女さんですかぁー?ズルイじゃないっすかあー。

基地に女を連れ込むなって言ったのご自分ですよー。せめてドアくらいは閉めてくださいよ。もぉー全く自由な人なんだからー。」


細くて背が高い銀髪のイケメン。

彼の声はこの状況に全くそぐわない、かなり陽気なものだった。


イケメンさんがあっさりドアを閉じようとする。


し、閉めないで!


あまりにヘラヘラ明るすぎる声のおかけで、ハッと我に帰った私は思い切り叫んだ。


「キャアァァーー!!!!痴漢です!助けて下さいいぃっッ!!」


筋肉男が顔をしかめる。


「うるっせぇな、頭ガンガンするだろっが!」


声が出た私は少し元気を取り戻し、何とか動いた右手に渾身の力をこめ、筋肉痴漢男の顔をグーパンチした。


ボコッ!


「痛ッッ!何すんだ!」


男が体を起こして鼻を抑えた隙に、男の下から何とか這い出した私はドアへ走った。足がよろめいてこけそうになる。

驚いた顔のイケメンがサッと腕を出し、倒れそうになる私を支えてくれた。


「大丈夫?お嬢さん?」

屈託のない少年のような明るい笑顔。


「タ、タ、タ、たた、助けて下さいッ!」


イケメンは苦笑しながら「まぁ、まぁ落ち着いて。」と諭すように言う。


「その人は痴漢はしないよ。女好きだけど。」


「そうだ!俺は痴漢じゃねーぞ!金はちゃんと前払いした!」


「何言ってんのこの人!?お金なんてもらってません!」


鼻を押さえながらゆっくり立ち上がった筋肉モリモリ男はイケメンさんよりも背が高い。そして素ッ裸でなぜか指なし手袋だけはつけていた。


「キャアァァーーーー!露出狂!変態!」


急いでイケメンさんの後ろに隠れて目をつぶった。

恐ろしいモノを見てしまった。


「おいおい、人の部屋に勝手に入ってきたのそっちだろ?俺はいつも裸で寝るんだ!」


まだ震えが止まらない私に気がついたイケメンさんは、

「ともかく下で紅茶でも飲みましょうか。」と優しく提案した。


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