高殿アカリ

第1話

私は、ちいさな羽を持っている。

ちいさくてちいさくて、みすぼらしい羽を。薄くて汚くて。

ところどころ破れかけている、私の羽。


薄茶色に濁ったその羽で、私は空を飛ばんとしていた。

この身体さえ支えられないようなその羽で、身の程知らずにも青い空に溶け込まんとしていた。


私の穢れた羽よりも、薄汚くどす黒く濁った地上を後にして。


馬鹿な夢を見ては、ただただ孤独に怯えるばかりの私。

空を飛びたくとも飛ぶための能力なんて一つもなかった。


私は愚図で鈍間で。

そう言われながら生きてきたし、実際そうだと思う。


だから、たとえ母に捨てられようとも、父に殴られようとも、クラスメイトに存在なく扱われようとも、担任に雑用を押し付けられようとも、当然のことなのだ。


秋。高校二年。私は昨日、十七歳になった。

父は私に暴力という名の誕生日プレゼントを与えた。


狂気に満ちた父の目を思い返す度、私は孤独じゃないと安心する。


それでも、昨日刻印された家族の印がうずくから。

赤黒く腫れた右瞼のせいで優しい空の青がよく見えないから。


やっぱり私の羽は飛びたそうに、低く小さく、ささやかな重低音を奏でる。

その音は私にしか聞こえない。


そう、これでいいのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る