(9)

 ロゼットの鶴の一声によって、リゼットとミュゼットは瞬時に黙ってしまった。

 二人とも基本的に気は強そうだけれど、若い身空で兄弟の親代わりを務めたロゼットには、やっぱり頭が上がらないのだろう。


 急に静かになった部屋の中。

 ロゼットは軽く咳払いをし、僕に大きめのグラスに入った水を差し出してくれた。


「ユウト様、まずはこれで喉をお潤しください」


 やっと水が飲める!

 僕はコップを受けとり、一気に飲み干した。


 ああ……。 

 冷たくて最高にうまい。


 ちょっぴり気取った表現をしてみれば、ただの水なのにどんな美酒よりも美味しい、と言ったところだ。

 いや、お酒なんてビールを一口舐めたことがあるくらいだけれど――


「ロゼットさん、ありがとうございます。本当に美味しかったです」

 と、僕はロゼットにグラスを返した。

「なんだか生き返った気分です」


「あの、ユウト様……」


 グラスをお盆に載せたロゼットが、何か言いたげにモジモジしている。

 いつもテキパキしている完璧メイドさんにしては珍しい。


「はい、なんでしょうか?」


「リゼットとミュゼットの会話を少し聞いてしまったのですが――」

 ロゼットの端整な顔に、ポッと赤みが差す。

「その……あの……わたくしも、ユウト様のお相手をするのはやぶさかではありませんわ」


「え……!?」


 お相手って……?

 まさか……そっち系の話?


「ユウト様がそれでお喜びいただけるなら、お客様をおもてなしするメイドとしても本望なのです。――あ、誤解しないでくださいませ。私も決して仕事だからということではなく、むしろユウト様とそういうご縁を結ぶことができればこの上なく嬉しい――かと、存じます」


「待って待って!」

 ミュゼットが我慢しきれず叫んだ。

「まさかロゼット姉さまもユウ兄ちゃんを狙ってたの?」


「これはびっくりサプライズですねぇ」

 と、リゼットも小首をかしげる。

「メイド業一筋、オトコにまったく興味のなかったあのロゼット姉さまが……」


「二人とも落ち着きなさい。もちろんすべてはでユウト様のご意志によります。でも――」

 ロゼットが恥ずかしそうにつぶやく。

「この間の朝、ユウト様は私にこのメイド服を脱げとご命じされたので……当然ユウト様はその先のこともお望みなのかと……」 

 

 うわーっぁぁ! 

 そういえばそうだった!!


 




 

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