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「まー、なによミュゼット。急に色気付いちゃって!」

 と、男爵が呆れたように言った。

「ついでに言わせてもらえば、さっき足を挫いたふりして倒れた時の格好もなんなのよ! 妙にエロくてあられもなくってさ、てっきりハイオークを誘惑しているのかと勘違いしちゃったじゃない!」


「あーあれ? あれはね、性欲と食欲は紙一重って言うじゃん。だからちょっと色気出して誘ってみたらハイオークが余計にボクを食べたくなるかと思って。……まあ少々演出過剰だったかもしれないけどさ。お気に入りの服まで破られちゃうし」


「そうよ、紛らわしい! この子ったらホントに危なっかしいだから! さっきだってユウちゃんが助けなかったら、結局ハイオークのパンチでぺちゃんこだったじゃない」


 男爵は割と本気で怒っている。

 やっぱりミュゼットのことを心から心配しているのだ。


「……そうですよね。いくら計算ずくで戦っていたにしても、やっぱり不測の事態と言うのは起こるものなんですよね」

 と、リナが男爵に同調する。

「あと一つ疑問なんですが、さっきのミュゼットさんのすごい魔法――『地獄の業火インフェルノ』でしたっけ? あれを真っ先に唱えていれば労せずハイオークに勝てたんじゃないでしょうか?」


「言われてみれば!」

 と、男爵もうなずく。

「ミュゼット! あの見てるだけでオシッコちびりそうな魔法、なんで最初に使わなかったのよ!」


「お二人とも、ちょっと待ってください! その点でミュゼットさんを責るのは酷と言うものです」


 その質問が出ることをあらかじめ予想していた僕は、ミュゼットの代わりに答えた。


「あの『地獄の業火インフェルノ』の魔法はパワーが凄まじい分、魔力の消費が極めて大きいんです。つまりたとえハイオークは倒せたとしても、後々他の敵に出会った時に魔法が使えなくて困ってしまう。下手をすればデュロワ城までみんなを守りながらたどり着くという責務を果たせなくなりますからね。――ミュゼットさんはちゃんとそこまで考えて戦っていたんです」


 戦闘が始まる前にミュゼットが炎の壁で結界を張ったのも、おそらく僕たちを危険に晒すことなく一人で戦い抜くため。

 見かけは人を舐めたようなところがあるミュゼットだが、実は騎士として、また王の騎士団キングナイツの一員として、任務を必ず遂行するという強い責任感を心の内に抱えているのだ。


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