(22)

「そうだ! これから先――」

 と、ミュゼットが続けて言った。

「親愛の情をこめて、ユウトのこと“お兄ちゃん”って呼んでいい?」


「は!?」


「嫌なの? う~ん……それなら――ユウ兄ちゃんでどう?」


「別に何て呼んでもいいですけど……」

 と、僕はミュゼットに言った。

「まずはそこのハイオークをなんとかしないと……」


「わかってるから、そっちはまかせておいて!」

 ミュゼットはニッコリ笑った。

「変態オークには、ボクがとっておきの魔法でお仕置きしてやるんだから! これを使っちゃうと後がしんどいんだけどね」


 とっておきの――

 ということは、おそらく炎系の最上位攻撃魔法か。


 ミュゼットは僕から少しだけ離れ、パンチを繰り出し続けるハイオークの方を向いた。

 そして瞳を閉じ、精神統一して詠唱を始めた。


 

「偉大なる灼熱の神にして冥府の門番ジャウストよ――!

 我れの手に紅蓮の力と久遠の炎を――!!」


    『  地 獄 の 業 火インフェルノ――――!!!  』 


 

 中二病全開な魔法詠唱――


 が、それをするのがミュゼットだと、まったく痛く見えない。

 むしろ一瞬目を奪われてしまうぐらい、魔法でハイオークに立ち向うミュゼットの姿はさまになっていた。

 

 当然その威力も凄まじい。


 ミュゼットが『地獄の業火インフェルノ』の詠唱を終えた途端、ハイオークの真下の地面が網目状にひび割れ、そこから真紅のマグマが天にも届く勢いで吹き上がった。

 それは僕が今まで見てきたディスプレイに映し出されるゲームのCGとはまったく違う、魔法によって生み出されたリアルで凄絶な炎の嵐だった。


 ハイオークの巨体はたちまちその火柱に包まれ、その最後の咆哮も、燃え立つ炎の轟音によってかき消されてしまう。


 すべてを焼き尽くす『地獄の業火インフェルノ』はその後数分間、荒れ狂うように燃え続け――


 炎が消え去った時には、一体のハイオークが、この異世界から跡形もなく消滅していたのだった。 


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