(20)

 口内に打ち込まれた『フレイムショット』よって頭部を破壊されたハイオークは、断末魔の叫びを上げることすらできず、ドシンと膝をついた。

 

「やったね! 一丁上がり!」


 ミュゼットは軽口をたたきつつ、倒れかかるハイオークの手の中からするりと抜け出して、空中に高々ジャンプした。

 そしてそのままくるりと二回転半宙返りを決め、二本の足をピッタリそろえて美しく着地した。


「正義は勝つ!」


 地面に横たわるハイオークを背景にして、ミュゼットは僕たちの方を向いて高らかに叫ぶ。

 が、ハイオークに服を破られ上半身はほぼ裸。

 なのでミュゼットは丸見えになった薄い胸を左手で隠しながら、右手でVサインをきめた。


 僕が『炎の壁ファイアウォール』を破ることに成功したのは、それとまさに同じタイミングだった。

 繰り返し『ブレイク』をかけ続けたことが功を奏し、炎は鎮火し、結界はようやく解除されたのだ。 


「うえっ!」

 ミュゼットがびっくりして大声を上げた。

「ボクの『炎の壁ファイアウォール』を解いちゃうなんて、アンタ何者? すげーじゃん! ま、今さらだけどさ――」


「ミュゼット!」

 僕は必死に叫び、彼女に向かってダッシュした。

「危ない!!」


「――え!?」


 ミュゼットは僕の言葉に一瞬キョトンとした。

 が、すぐに背後に何か大きな気配を感じ、後ろを振り向いた。

 そこにあったのは――


「ウソ……!」


 顔を燃え上がらせながら再び立ち上がる、ハイオークの巨体だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 何もかも計算済みだったはずのミュゼット唯一の誤算。

 それは実際に戦ってみた者僕たちしか分からない、脳を半ば破壊されても動くことができる、ハイオークの折り紙つきの並外れた耐久力だった。


 結局、彼女は自分の強さと頭の良さに慢心し、ハイオークとの戦いは“舐めプ”に終始していた。

 だからこそ最後の最後で油断して、足をすくわれる結果になってしまったのだ。

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