(6)

 考えてみればあの時、『シール』でセフィーゼの魔法を封じるよりも、魔女ヒルダにとどめを刺したのと同じ『マジックドレイン』を唱え、彼女の魔力をすべて吸い取ってしまった方が安全だったのだ。

 

 いや、そもそも――

 セフィーゼが狂ってしまったのは、僕が彼女を追い詰め過ぎたせいではないのか?


「あとはまあ、ご覧の通りだよ」

 と、悩む僕に、エリックが言った。

「俺が中心になって、辛うじてロードラント軍はまとまることができたが、戦っている最中にセフィーゼの放ったうちの一発がレーモン公の足をばっさりやっちまったというわけだ。――ただ俺たちにとってラッキーだったのは、そのすぐ後であのヘクター将軍がセフィーゼを無理やりとっつかまえ、軍の主力とともに撤退したってことだな」


「……僕とアリス様が組んで戦ったあのヘクター将軍が?」


「ああ、そうだ。たぶん奴もセフィーゼの狂いっぷりを心配したんだろう。それにこれ以上自軍の損害が拡大するのもマズイと思ったに違いない。戦争はまだ終わったわけじゃないからな」


 エリックの説明でだいたいの経緯が分かった。

 セフィーゼのことはものすごくショックだし、正直言って、兵士たちの命を何とも思わないレーモンにも腹が立つ。

 しかしそれでも回復職ヒーラーとして、重体のレーモンのことを放っては置けない。


「リナ様、申し訳ありませんがどいてください」

 僕は、レーモンに覆いかぶさって泣くリナに声をかけた。

「魔法でレーモン様を治します」


「ユウトさん、お願いします!」

 リナが涙で濡れた顔をぱっと上げた。

「もしも叔父様が助かったら一生恩に着ます!」


 僕はうなずき、リナと入れ替わるようにレーモンの脇にしゃがみ、手をかざした。


『リカバー!』

 

 この魔法も、もう何回唱えたかわからない。

 そしてその度に何人もの命を救ってきた――


 けれど……あれ?


 なぜか、今回ばかりは思うようにいかない。

 いくら魔力を込めても、思うようにレーモンが回復してくれないのだ。


「……おかしい。変だな」


 僕は首をかしげた。

『リカバー』の暖かな光はレーモンを包み込んでいる。

 つまり魔法の効果は確かに発動しているのだ。


 レーモンのダメージが大きすぎたのか?

 いや、しかし回復魔法は僕が一番得意としているはずなのに――


「ユウトさん……?」

 

 レーモンのかんばしくない様子に、リナの顔の陰りが濃くなる。

 それを見て焦り感じ始めていると――


 助け船を出すかのように、背中から声がかかった。


「ユウト君、今のままではレーモン公爵はよくなられないと思いますよ」


 丁寧なかつ穏やかな言葉で進言してくれたのは、王の騎士団キングスナイツの団員、メガネのクロードだった。




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