(4)

「エリック!」

 

 リナを庇ったのはエリックだった。

 顔は血と泥まみれで汚れてはいたが、他の兵士と違って鋭い眼光と生気は失ってはいない。


「ユウト! ユウトじゃねーか!」

 エリックが僕に気付き、駆け寄ってきた。

「もしやとは思ったが、この霧、やっぱりお前の魔法だったか!」


 エリックは僕の手をぎゅっと握った。

 感極まったのか、声は震え目には熱い涙を浮かべている。


「俺は信じてたぜ!!」


「エリック、置き去りにしてごめん」

 と、僕は言った。

「自分だけ生き延びるつもりはなかったんだ」


「おいおい、そんなことは分かっていたぜ。お前が竜騎士どもに無理やり連れてかれたのは俺も見ていたからな。――それで、アリス王女はどうした? 無事か?」


「ああ、なんとかデュロワ城まで送り届けたよ。色々あったけど……。あの、トマスさんは?」


「ああ、あっちに座り込んでいる。人の十倍ぐらいタフな男だから命に別状はないが、今回ばっかりはさすがに堪えたようだぜ。なにしろたった一人でみんなの矢面に立っていたからな」


「じゃあ、急いで回復リカバーするね」


「ああ、頼むぜ。だが、その前に診てほしい人がいる。あのジジイ――レーモンのことだ」


 レーモン公爵をジジイ呼ばわりか……。


 が、レーモンはアリスを助けるために兵士たちを犠牲にしたわけで、それはある意味裏切り行為に等しく、この土壇場の状況で、騎士と兵士、貴族と平民という身分関係が崩壊してしまったのも当然のことなのかもしれない。


「おーいリナ様、ちょっと一緒に来てください」

 と、そこでエリックがリナを呼んだ。

「レーモン公がお待ちですぜ」


 エリックはリナに気を使って、真っ先に二人を引き合わせる気なのだ。

 ということは、おそらくレーモンの身に何かが起こったのだろう。



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