(2)

 この世界では白魔法の力だけは誰にも負けないと思ったのに、どうやらそうでもなかったらしい。

 自分が思い上がっていたことを知り、さらにガックリしていると、馬が緩い坂に差し掛かった。

 

「リナ様、馬を止めて下さい」


 一昼夜戦い抜き消耗し尽くしたロードラントの兵士たちがこの丘の上で待っている。

 彼らも当然、霧に包まれ身動きが取れないだろう。


「馬がみんなを蹴飛ばしてしまう可能性があるので、ここからは歩きましょう」

 僕は先に馬から降り、リナに頼んだ。

「すみません、馬のことはお願いします」


「ねーねー」

 先に到着していたミュゼットが催促する。

「ボクらは平気だけどさあ、やっぱ霧が邪魔だからなんとかしてよ」

 

「分かっています」


 ミュゼットに言われなくてもそのつもりだ。

 ロードラント兵を救ったこの霧が、今は逆に救助の妨げになっているからだ。


 僕はふっと目を閉じ、精神を集中させた。

 ここは魔法のさじ加減が肝要――


『ブレイク!!』


 すべての魔法効果を打ち消す淡い光が、僕の体から一斉に湧き出る。

 その光は瞬く間に周囲に広がり、『ミスト』によって発生した霧をどんどん消していく。


 が、すべての霧をなくしてしまう気はない。

 この付近一帯を部分的に晴らせて、空洞を形成する――

 つまり霧のドームと言うか、かまくらを作る感じにするのだ。


「ユウト君、なんとも器用な魔法の使い方ですね……」

 遅れてきたクロードが、僕の魔法を見て唸る。

「これなら外は霧で覆われているから、敵にはまず見つからない」 


 クロードは僕の狙いを即、見抜いたようだ。

 まったくその通り。

 万が一敵が戻ってきても、この場を再び探し当てることは困難だろう。


「みなさん――!!」

 

 霧が晴れ、馬を枯れ木につないだリナが大声で呼びかける。

 そしてリナは、いてもたってもいられない様子で、一人丘の上へ向かって駆けだした。


 口には出さないが、リナは彼女の叔父――レーモン公爵のことが心配でたまらないのだろう。

 確かにあの頑固な老将軍は今どうしているか気にはなった。


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