(3)

 朝の曇天が嘘のように、空はいつの間にかきれいに晴れ渡っていた。

 その分眺めもよく、岩山の上からは明るい日差しに照らされた緑の平原をはるか彼方まで一望することができた。

 もしも今が普段の平和な状態なら、異世界の雄大かつファンタジーな大自然の風景に感動ひとしおだっただろう。


 だが、実際そこに広がっていたのは――


 血の洪水によって赤黒く染まった大地。

 広範囲に散乱し、また小山のように積み上がった人間とコボルトの死体。


 それは誰しも思わず目を覆いたくなるような、凄惨せいさんとしか言いいようにない光景だったのだ。


 昨日の戦いの経過からして、この状況はある程度予想できたことではあった。

 なのにここまで衝撃が強いのは、言わば地上を見下ろす神のような視点で、戦いの犠牲者を全体的に俯瞰ふかんしてしまったからだ。


「こんなことって!」

 リナが思わず叫び声を上げ、手で口を塞ぐ。


「これが戦争。かつて見た光景……何にも変わっていない」

 グリモ男爵が深いため息をつく。

「結局、アタシも戻ってきてしまった……」


「………………」

 マティアスは一人、眉をひそめただ黙り込んでいる。


 みんなそれぞれショックを受けている。

 もちろん僕もそれは同じだ。

 しかし、だからと言ってぼう然とばかりしてはいられない。


 誰か生存者はいないのか?

 エリックは? トマスは――? 


 僕たち以外、生きとし生ける者なくすべてが死に絶えたような地獄の戦場を、僕は血眼ちまなこになって探した。


 

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