(3)
「たった100! この巨大な城にたった100人しか兵がいないというのか!?」
と、アリスが絶望的な声を出した。
「ええ、なにしろここは誰からも見捨てられた辺境の城。まともに動かせる兵力など最初からそろっていませんわ」
「だめだ、その数ではとても足りない……グリモ、なにか他に策はないか? 戦場に残してきた兵を救う妙案が! お前は現役時代、知略でその名を馳せたのだろう?」
「そうですわねえ――1番に考え付くのは至急、中央に援軍を要請することしかありません」
「なんだグリモその案は! いくらなんでも凡策すぎる!」
と、アリスは男爵に食って掛かった。
「だいたいそれではまったく時間が合わない。この城に援軍が到着するまでどんなに急いでも十日はかかる。グリモ、お前はその間兵士たちが戦場で生き延びることができると思うのか!」
「アリス様、どうぞ落ち着いて……」
「黙れグリモ! もうお前は当てにせん。――ユウト、私はどうしたらいい? どうしたら皆を――!!」
アリスは一瞬錯乱し、僕に掴み掛ろうとして、それから急に大きく体をぐらつかせた。
もし僕が咄嗟にアリスの体を支えていなかったら、アリスはそのまま廊下に倒れ込んでいただろう。
「アリス様、しっかりしてください!」
アリスの全身から熱さを感じる。
ためし額に手を当ててみると、汗ばんでかなりの熱をもっていた。
そのためか意識も混濁しているようだ。
「男爵様、どうやらアリス様は熱があるようです」
僕は男爵に言った。
「可哀そうに。やっぱり無理しすぎていたのねぇ」
男爵がため息まじりに、僕からぐったりしたアリスの体を受け取った。
「リゼット、あなたはアタシと一緒にきてアリス様の着替えを手伝ってちょうだい。ロゼットはユウちゃんを部屋まで案内してあげて。――ユウちゃん、今日は本当にお疲れ様でした。アリス様のことはアタシに任せて、アナタもしっかり休むのよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
こうして異世界での長い一日が終わった。
だが明日になれば僕は、エリックやトマス、仲間の兵士たちを救い出すために戦場に戻らなければならない。
アリスは僕と同行したいに決まっているが、あの様子だと動くのは無理だし、何より危険すぎる。
マティアスは一緒に行くわけない。むしろ妨害してくるだろう。
リナは――どうだろうか?
もう危険なことに巻き込みたくないという思いもあるが、それ以前に彼女は叔父であるレーモン公やマティアスの味方。
やはり僕が行くのを止めるに違いない。
結局のところ、自分の力を頼りに、単独で行動するしかないのだ。
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