(9)
「やーね、こんどは部下いびり?」
と、グリモ男爵はオーバーに肩をすくめた。
「やっぱりアンタは私の知っているマティアスとは別人ね」
「黙れグリモ! そのデカい目玉ひん剥いてよーく見ろ!」
マティアスは自分の馬を飛び下り、堀の淵の方までズカズカ歩いていった。
「かつての
「
男爵は意味深につぶやいた。
「そんな人、アタシにいたかしら?」
「なんだと!?」
「だって何のためらいもなくアタシを逮捕した人が
「…………グリモ、やはりあの時のことをまだ根に持っているのか」
「そうね、もうあれから八年経つのね……」
と、男爵は大きくため息をつく。
「あの日、まだ陽も出ない肌寒い早朝に近衛竜騎士団副隊長マティアス=アーレンスはアタシの家の扉をノックしたわ。王国裁判所の逮捕令状を持ってね。その時の絶望感たらなかった。いつも孤独だったアタシが唯一信じていた、最愛の人に裏切られたのだから」
おいおいおい――!
最愛の人ってまさか……?
「……あれは上からの指示だったのだ。それはお前も分かっているはずだ」
と、マティアスは苦しげに言う。
「ふーん。だから今も、その上からの命令とやらでそんな血相変えてるってわけ。つくづく情けないわね。昔のマティアスはまだ一人の男としての心意気と覇気があった。それがどうよ。すっかり飼いならされちゃって。今のアンタってまるで死にかけの兵隊アリじゃない」
「……どうとでも言え。とにかく俺をマティアス本人だと認めたのだな? ならば我々を城内に入れろ! いつ敵の追っ手が現れるからわからないのだぞ!」
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