(8)
な、なんなんだこの人……。
サムい。
スベってる。
一瞬だけ、そう感じた。
しかしそんな月並みな感想など吹き飛ばすくらい、有無を言わせない圧倒的なパワーが男爵にはあった。
異世界の“かぶき者”とでもいった感じだろうか、歌も踊りもきめポーズも次第に格好よく見えてきて、いつの間にか目が離せなくなっているのだ。
リナと竜騎士たちも僕と同じ感想を抱いたのか、目の前で繰り広げられる世にも奇妙な光景を、あっけにとられながら黙って見つめている。
ただ一人、マティアスを除いて――
「グリモ! お前という男は!」
ポーズをきめたままの男爵を、マティアスが怒鳴りつけた。
「相変わらずふざけた野郎だ!」
「あら!?」
男爵は怒るマティアスを見て、細い眉をピクリと動かした。
「その声は竜騎士の中の竜騎士、マティアス=アーレンス――」
「そうだ! さあグリモ! さっさと我々を中に入れろ!」
「……いいえ、違うわね」
と、男爵は甲高いおネエ言葉で言った。
「そんなに乱暴でしみったれた男、アタシの知るマティアスじゃあないわ!」
「グリモ、き、貴様!」
「まさかと思ってこんな夜更けにわざわざ出てきてあげたけど、とんだ無駄骨折っちゃった。アタシは寝室に戻って寝るから、アンタたちも黙ってお家に帰りなさい」
「待て待て待て!」
マティアスは切歯して叫び、僕に向かって言った。
「――おい、ユウト! 今すぐ俺の顔を魔法で照らせ!」
「は!?」
「いいからやるんだ!」
「は、はい」
マティアスのすごい剣幕に押され、僕は考える暇なく反射的に魔法を唱えた。
『ルミナス!』
マティアスの頭上に光の弾がパッと出現した。
もちろん今回は、コボルト兵の目くらましに使った時より魔力を大幅に抑えてある。
本来の使用目的に沿って、あくまで照明用として唱えたのだ。
だが、マティアスはいきなり僕の頭をポカリと殴った。
「痛たっ」
目から火花が出てつい叫んでしまった。
「な、なにするんですか!」
言われた通りにしたのにあまりに理不尽!
いくら上官とはいえ抗議したくなるもの当然だろう。
だが、マティアスは――
「バカ! いくらなんでも光が強すぎるぞ! 敵に見つかったらどうする! 俺の顔だけを照らせばいいんだ」
確かに今、城内に入れないでいる僕たちを敵が見つけたらアウトだ。
デュロワ城の堀と挟み撃ちになってどこにも逃げ場はないからだ。
……にしても殴ることないじゃないか。
マティアスは怒りっぽすぎだ。完全に人が変わってしまっている。
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