(2)

「どうしたの? まずは謝りなさい! それとクラスと名前は?」


「す、すみません」

 僕は慌てて頭を下げた。

「1-Cの有川です。体育で転んだケガが痛くてついノックを忘れてしまいました。――それで、あの、消毒してバンソウコウかなにか貸してほしいのですが」


「貸して、ですって?」

 先生がキツイ目をしてこちらをにらむ。

「違うでしょう! 返すわけじゃないんだから「ください」と言いなさい」


「え、ああ、本当にすみません……」


 そんなのどっちでもいいじゃないか、言葉のあやだろう。

 と、内心では思ったが、そんなこともちろん口には出せない。

 むしろ卑屈なまでに謝ってしまう。


「まあいいわ。ほら、足、見せてみて」


 先生は僕を椅子に座らせ、ほんの数秒ケガの様子をちら見した。

 もちろん消毒はしてくれない。


「この程度なら医者に行くまでもないわね。はい、これ」


 先生は面倒くさそうに消毒薬と絆創膏ばんそうこうをポンと投げてよこす。

 超絶冷たい態度だ。

 別に何かを期待していたわけではないが、さすがに酷い。


 いたたまれない気分になりながら、僕は自分で傷を消毒し、絆創膏ばんそうこうを貼った。

 その間、先生はさっさと仕事に戻ってしまう。

 手当てが済んだら一刻も早くここから出ていけ、といった感じだ。


 もうこれ以上保健室で時間を潰すのは無理か……。

 僕は諦めて立ち上がり、軽くお辞儀をした。

 

「ありがとうございました」


「はい」

 先生はそっけなく返事をしただけで、デスクから顔を上げもしない。


「……では、失礼します」


「あ、ドアは閉めてくこと」


 それぐらい言われなくてもやるよ……。

 僕はさらに嫌な気分になったが、それ以上何も言わず、もう一度お辞儀をして保健室を出た。

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