(5)

「ユウト!」

 ヒルダが今度は僕に向かって怒鳴る。

「キサマも王女を救い出したければ死ぬ気になってシャノンを倒し、そして私を殺してみよ! ただし剣のみで戦え。もしシャノンに魔法は使うばどうなるか――当然分かるな?」


 僕が魔法を唱えたら即座に『アストラル』を発動させるというわけか。

 ヒルダはさすがにぬかりない。


 ――剣でシャノンを倒すなんてこと無理なのは百も承知。


 それでも僕は一応はショートソードを構え、シャノンと向き合った。

 しかしお互いピクリとさえ動けない。

 三十秒、一分と時間だけが過ぎていく。


「どうした、二人とも戦う気がないのか!」

 ヒルダがわざとらしく嘆く。

「ではやむを得ないな。今すぐ『アストラル』を発動させようか」


 まずい。

 ヒルダはやると言ったらやるタイプだ。

 今は無理にでも戦うふりをして時間を稼がねば――


「うおおおおーー」


 僕は叫びながらショートソードを振りかぶって、シャノンに打ち下ろした。

 もちろん本気ではない。

 シャノンもそれが分かっていて刀で軽く受け流す。

 それでも「カキンッ」という高い金属音がし、刃と刃がぶつかって火花が散る。


 だが、たったそれだけで腕が強く痺れジンジンとしてしまった。

 やっぱりこうなるか。

 基本回復職ヒーラーである自分に、剣で人を倒すなんてことは不可能なんだ。


 ――不可能?


 そこではっと気づいた。

 もしここが|オンラインRPGの世界ならどうなんだ、と。


 回復職ヒーラーが剣を持って戦う――

 そんなバカげた話ないではないか。

 ましてやその状態で強力なボスを倒すなど、論外中の論外だろう。


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