(8)

 ――ダメだダメだダメだ!!


 ここで死ぬわけにはいかない!

 僕でなければあの魔女は倒せない。

 マティアスや竜騎士たちでは、リナを救えないのだ。


 が、しかし……。

 首を絞められ身動きが取れない状態で、いったいどうすればいいのか?

 ……何も思いつかない。


 ――いや、違う! 


 たとえどんな絶望的状況でも道を切り開く方法は必ずあるはず。

 昔読んだ本に、確かそんなことが書いてあった。

 今だって、きっと何か思いもよらない方法が――


「やめて!! お願い、誰か助けてあげて!!」


 その時、リナの悲鳴がはっきりと聞こえた。

 自分がひどい目にあいながらも、僕のことを心配してくれているのだ。


 うれしかった。

 現実世界の理奈と異世界のリナ。

 理奈には見捨てられたけれどリナには想われている――

 これほど心に響き、そして勇気づけられる事実はない。


 そうだ……!


 このアンデッド化したヴィクトル将軍にも、生前、大事に想う人がいたはず。

 そして僕はその人の名前を知っているではないか! 

 ヴィクトル将軍の頭の中に少しでも過去の記憶が残っていれば、もしかして――


「ティ、ティルファ……」

 僕はなんとか口を開き、そうつぶやいた。


「…………?」


 ヴィクトル将軍の手がかすかに緩んだ。

 濁った目を見開き、僕をみつめる。


「ティルファさん――あなたの娘さんは無事です!」

 僕は声を振り絞って叫んだ。

「重傷でしたが僕の魔法で命を取り留めました!!」


 その途端、いきなりヴィクトル将軍の手の力が抜けた。

 腕を下げ、僕の体を地面にゆっくりと降ろす。


 

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