(10)

 避けるどころか、わずかに身動きする暇さえなかった。

 光弾は、竜騎士に当たった瞬間パッと広がりその体全体を包み込んだ。


 するとたちまち竜騎士の足が灰色に変化し始め、その範囲はすぐに上半身から頭部へと広がっていき――

 光が消えた時には、竜騎士は完全な一体の石像と化してしまっていた。


「どうだ? なかなか面白い魔法だろう」

 魔女の笑い声が森の中に響く。


 なんてことだ! 

 僕がモタモタしているうちにまた犠牲者が増えてしまった。


 もう迷ってはいられない。

『ソウルスティール』や『ストーン』は「効くか効かないか」という、いわば“確率の魔法”。

 そして、この異世界アリスティアがゲームと似た世界ならば、その手の魔法に対する耐性は自分にそれなりに備わっているはず。

 少なくとも、一発でやられる可能性は竜騎士たちよりずっと低いに違いない。


 いける、きっといける! 

 そう自分を奮い立たせ、馬を飛び降りようとしたその時――


「おや?」


 魔女が驚いたような声を上げた。

 目深にかぶったローブフードの奥に隠れた瞳が、きらりと光ったような気がする。


「まさか! ――いや間違いない。その目その髪その美貌。まさしくロードラントのアリス王女!! この度のいくさに出陣しているとは聞いていたが……」


 まずい。

 前衛の竜騎士がまとめて倒されたため、アリスに扮したリナの姿が、いつの間にか魔女に丸見えになってしまっていただ。


嗚呼ああ、なんたる僥倖ぎょうこう! 罠にネズミがかかったと思ったら獅子だった――いやいや可憐なバラのつぼみと言うべきか」


 空耳ではない。

「ゴクリ」、と魔女が唾を飲み込む音を僕は確かに聞いた。

 狙い通り、リナのことを完全にアリスだと思い込んでいるようだ。


「や、やだ……」


 しかしリナは、気色悪い魔女の言葉にビクッと震えた。



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