(3)

 その時、竜騎士の一人がリナの横に馬を付け、

「リナ殿、お願いします」

 と、小さく声をかけた。


「分かっています。任せください」


 リナはうなずくと、背筋をピンと伸ばし濃紺のマントをひるがえした。

 その王者の風格漂う堂々たる姿はまさしくアリス王女そのもの。

 知らない人が見れば絶対に本人だと思うだろう。


 しかし、だからこそ余計に危険極まりないのだ。

 この影武者作戦は。


 もし本気でリナのことが好きならば、アリスの身代わりなんて止めさせるべきなのに、僕にはそれができなかった。

 ただなすがまま、事態の展開を見守るだけという情けなさだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 竜騎士団は森の出口に向かってゆっくりと進んでいった。

 まもなく、行く手をさえぎる二人の姿がはっきり見えてきた。


 一人は何かを待つように静かに枯れ木に寄りかかっている。

 もう一人は道の中央に立ちこちらの出方をじっとうかがっている。


 マティアス二人を注視し、少し驚いたようにつぶやいた。


「どちらも女か……」


 マティアスの言うとおり、木に寄りかかっている一人は、つややかな黒髪を腰まで伸ばした背の高い若い女だった。


 切れ長の目に長いまつげにツンとした鼻、紅色の薄い唇が特徴的で、アリスやリナにないクールで大人っぽい美しさがある。

 防具は特に身に付けていないが、日本刀のような緩い反りの入った長剣を抱えているから、おそらく職業ジョブは剣士なのだろう。


 それより不気味なのは、道の真ん中に立つ、灰色のフードローブを頭からすっぽりかぶった謎の人物だ。

 フードの奥は真っ暗でどんな顔をしているのかはまったく見えないが、ローブの下に浮き出ている大きな胸からして、女であることは確かだ。

 武器は一切持っていないから、このローブの女が魔法使いタイプであることは、まず間違いなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る