(2)
「ユウトさん、縄を切ります」
異様な気配を感じたのだろう、リナは腰の短刀を抜き僕の手首の縄と腰ひもを切った。
続いて頭の後ろに手を伸ばし、猿ぐつわも外す。
急に呼吸が楽になって、僕は大きく息を吸いふっと吐いた。
「ユウトさん、聞いて下さい」
リナは差し迫った声で言った。
「今、私はロードラント王国のアリス王女です。そしてあなたは王女の護衛兵――いいですか? どんなことがあっても、決して私の正体をばらさないでください」
「でも!」
僕は我慢しきれず言い返した。
「それではリナ様の身が危険すぎます!」
「ですからそれでよいのです! 私はどんな覚悟もできているのですから。――ユウトさん、どうか今だけは私に従って下さい。アリス様を守るために!」
「………………」
そこまで強く言われてしまっては仕方がない。
現実世界と同じく、リナにはいつも敵わないのだ。
しかしアリス本人はどうだろう?
彼女の性格からして、リナを犠牲にして自分だけ助かるなんてことは絶対に嫌なんじゃないか?
そう思い再度アリスの様子を伺うと――
案の定アリスは鎧に覆われた手足をばたつかせ、抗議を始めた。
アリスの顔は兜のバイザーが下ろされているため見えないけれど、きっと悔し涙を流している違いない。
が、今はリナもマティアスもアリスを徹底的に無視する方針らしい。
アリスがどんなにあがこうとも、まったく取り合おうとしない。
「全員このままゆっくり馬を進めろ」
マティアスが竜騎士たちに指示を出す。
「よいか? 絶対にこちらからは仕掛けるなよ」
マティアスはすでに、前方の二人が並々ならぬ相手であることを察知しているようだ。
抱えていたアリスの体をひょいと持ち上げ、隣の竜騎士に渡すと、一人で前に出ていった。
今回は自分が先頭に立って戦うつもりなのだろう。
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