(6)

「そのサーベルタイガーを殺したらタダじゃおかねーからな!」


 乱暴なセリフと共にひょっこり飛び出してきたのは、もう一頭の別のサーベルタイガーにまたがったやんちゃそうな少年だった。


 いや、それとも少女か――?


 というのも、彼、もしくは彼女の顔がセフィーゼにそっくりだったからだ。

 ただし目の色が違う。

 セフィーゼのそれが美しいエメラルド色だったの対し、その子は深い琥珀こはく色の瞳を持っていた。


「やはり現れたか」

 レーモンの眼光が鋭くなる。

「たいていの猛獣使いビーストテイマーは飼いならした己の獣を他の何より大事にするものだからな」


 なるほど!

 レーモンが眠ったサーベルタイガーを周囲に見せつけるように殺そうとしたのは、飼い主をおびき出す目的もあったのだ。


「貴様、今までどこに隠れていた?」

 レーモンが僕から受け取ったショートソードを構えて叫んだ。


「向こうにある窪地の底の方だよ。出てくるつもりはなかったけど、レムスが殺されそうになっちゃあ黙ってはいられないからな」


 レムス――

 僕が眠らせたサーベルタイガーの名前だろう。


「そなた、セフィーゼと顔が瓜二つだな。兄妹か?」

 レーモンに代わってアリスが訊く。


「ご名答。って見ればわかるか。そうだよ、俺はセルジュ。セフィーゼの双子の弟、つまり男だからそこは間違うなよ」


 セルジュはそう言ってサーベルタイガーの背を軽く蹴り、ストンと地上に降り立った。

 

「ロムルス、まて! そこから動くな」


 セルジュは自分の乗ってきたサーベルタイガーに声をかけた。

 するとロムルスと呼ばれたサーベルタイガーは、すぐさまその場にちょこんとお座りをした。

 アリスを襲ったレムスと同種とは思えない従順さだ。  


「あーあ、まいったまいった。そっちで眠らされているレムス、この大事な時に勝手に出てっちゃうんだもん。たくさん血を見て興奮したんだろうけど、やっぱまだまだしつけが足りなかったなあ」


 セルジュは肩をすくめた。

 アリスが危うくそのレムスに食い殺されそうになったのに、まったく悪びれる様子はない。


 それどころか――


「でもまあレムスの気持ちも分かるんだよね。ここんとこまともなエサやってなかったから、レムスにはアリス様がすごいご馳走に見えちゃったんだ」


 と、いきなり恐ろしいことを言い出した。


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