(5)

 だが、ロードラントとイーザ両軍が相対しているこの戦場は、見晴らしの良い平原地帯に展開されている。

 パッと見て、人が隠れられるような場所はない。


「うーむ」

 と、レーモンが口髭をひねる。


「レーモン、お前の思い過ごしではないのか?」

 アリスが辺りをぐるりと眺めまわして言った。

「特に誰かが潜んでいるような感じはしないが」


「いいえアリス様、よくご観察下さい。たとえばあそこに見える大岩の影や、その向こうの倒木の脇など、人ひとり隠れる場所はそこかしこにございます」


 隠れる場所か……。

 そこで僕はふと『サーチ』という、敵の居場所を探る補助魔法のことを思い出した。


「あのー」

 と、アリスに声をかける。


「ん? なんだ、ユウト?」


「あ! ……いえ、何でもありません」

 

 危ない危ない。

 ここで『サーチ』は使えない。


 なぜなら『サーチ』はマップ上に敵の位置を表示する魔法。

 そしてそのマップを見るためには、『スキャン』と同じく、スマホの画面に映し出すしか方法はない。


 が、アリスとレーモンの目の前で堂々とスマホを出したら、それが何なのか説明しなければならないだろう。

 その時スマホを取り上げられ、万が一壊されでもしたら大変だ。


 スマホがなければ、セリカと通信する手段が断たれてしまうし、元の世界に戻る手段もなくなってしまうからだ。

 現実世界に未練があるわけではないが、そうなるとさすがにちょっと困る気がする。


「とにかくいったん皆のところへ行こう」

 アリスが言った。

「全員、私たちが戻るのを待ちわびているぞ」


「なりません、下手に動いては危険です」

 レーモンは簡単には気を緩めない。

「――おいユウト、そのショートソードを貸せ。今のうちにこの獣にとどめを刺さしておく」


 確かに『スリープ』の効果は長くは続かない。

 サーベルタイガーをこのまま放置しておいたら、目覚めた時またアリスを襲うかもしれない。


 僕は腰のショートソードを抜いて、レーモンに渡した。

 レーモンはそれを受け取ると、眠りこけるサーベルタイガーの首元を狙い、刃を付き刺そうとする。


 すると――


「ちょっと待ったあ~!」

 不意に誰かの叫び声がした。

 またまた子供っぽいが、今度は少年の声だ。




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